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この世界で  作者: 甘栗
18/73

第18話 帰りたい場所

坑道内の壁には、等間隔で松明が取り付けられていて、その松明の範囲は灯りにより照らされている

辺りを警戒しつつ、進む

内部に入って、15分は経ったと思うけど油断はしない

いつ、どこから現れるか分からない

今回の相手、ビッククラブは沼地や湿原、水源が近くにある場所に巣を作り、その範囲内でのみ活動する

ただ、稀に山の麓に巣を作る事もあるらしい

名前にもなってる巨大なハサミは人の腕を切るなんて簡単らしい


「シア君、そろそろ横穴が見えてくる

用心しときな」


頷いて、その言葉に応える

視界の端に人が掘ったにして、大きな穴が見えた

あれが?

マーカスの後に続いて、横穴に入る

灯りがなく薄暗いけど広い、横に4人くらい並んでも大丈夫そうだ


「いやー、巣の中に入るのは初めてだ」

「そうなんですか?」

「ああ、今までは沼地で見つけ次第、即ぶっ倒してたからね

初体験は新鮮だね、心が若返るようだ」


あー、そうですか。それに対しては僕には何も言えない

僕を見て、楽しそうに笑う

はぁ、と曖昧な返事だけする

つれないなぁ、と不満げに言わないで下さい


「進んでみて、感じたんですが

これって、下に進んでません?」

「そうだね、ひょっとしたら下に地下水源があるのかもね」


地下、か

あ、そうだ。ちょっと聞いてみたい事があったんだ


「そう言えば、砦で兵士への指示するの慣れてましたね」

「ん、ああ、そうだね

100年前まで軍属だったからかな?」


は?軍属?軍に居たのこの人が?


「まあ、僕には最近みたいな話だよ

その年に、自主的に軍を抜けて旅団を作り現在に至るね

…って、どしたの?」

「知らなかったですよ、そんな事」

「言わなかったし、言うほどの事じゃなかったからね、さ、進んでこう」


僕の背中をバシバシと叩いてくる、痛いんだけど


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


しばらくそうやって、歩いていたらかなり開けた場所に着いた

ここだけ明るい、理由を探すと見つかった

湖?


「なーる、明るいのはこの水源が理由か

で、地上に繋がってんだろうね」

「肝心のビッククラブは?」

「いや、いるね。あそこに」


中央に、ソイツはいた

黒い体に大きなハサミを持った魔物は、水辺で動かずにじっとしていた

眠ってるのかな?


「先制攻撃と行こうか、君は動き出すまで待機」


マーカスさんが、ゆっくりと近づいていく

何をしようとしてるか分からない、彼はハサミをよじ登り、ジャンプすると飛び蹴りをかました


「……は?」


突然の攻撃に、じっとしていたビッククラブが暴れ出した

いやいや、魔法じゃなくて物理って!?

そこは、真っ正面なんじゃ

…とりあえず、僕は剣を構えて走る

左右のハサミを振り回し、マーカスに当てようとしている、それを落ち着いて観察し、しゃがんだり転がったりして躱している


魔法、でサポートしてみるか

集中して、腕を突き出して


「…私の前に立つ敵に放たれよ、『サンダーアロー』」


掌から撃たれた一本の雷の矢がビッククラブの左のハサミに当たった、けどあまり効いてない?

僕の方に向きを変え迫ってくる


「相変わらずタフなカニだ、ねっと!!」


カニの後ろから、マーカスさんが再度攻撃しているようだ

途端、立ち止まり体を回転させてくる

慌て、僕は後ろに跳んだけど、反応が遅れたのか間に合わずハサミが当たり吹き飛ばされてしまう


「うわっ!?」


何回も転げ回り、水の中に落ちた

まずった、早く出なきゃ

痛む体を動かし、姿勢を直す

何とかして、陸に上がった

ビッククラブはしぶとく、マーカスさんに向かってハサミで襲いかかっている

傷は擦り傷だけ、まだいける、まだ戦える

倒すんだ、私がっ!!


ドクン、と言う自分から音がした

体が熱い、なに!?

両手で自分の体を抱く、何が起きて?

足元に何かが浮かび上がっていき、円が描かれる

そのなかを幾何学的な模様も出てくる

汗が止まらない、マーカスさんがこちらに気づいて駆け寄ってくる


「マー…カスさんっ!」

「シア君、無事…とは言い難いななんだか、いったい、何する気だい?」

「わかっ、りま、せん」


眼前には、ビッククラブがハサミを降り下ろそうとしていた

間に合わないし、躱せない

咄嗟に両手を突き出して、目を閉じる

何かがぶつかる音がした、あれ?何がどうなって?

恐る恐る、目を開ける。魔法陣がハサミによる攻撃を防いでいた


「驚いた、魔力障壁か

いやしかし、人間の間では失われて久しい魔法だけど?」


何か、光の粒が降り注いでいた

これには見覚えがある、あの時のだ

体の熱さが治まっていた、この光はこの魔法陣と同じモノだとわかった

なら、動かせないかな?両手はそのままにして、未だ攻撃を止めないビッククラブを睨む


「…集中、集中して」

「何をするのか説明をくれる?」

「前のやり方だと崩れ落ちる可能性があります、だから、貫くの」

「貫くって、可能なのか!?」


多分、やれる気がする。動いて、私の意思に答えて!!

光が地面に落ちずに僕の周りを回転しだす

両手を降ろすと、私を護っていた魔法陣が消え、ハサミが迫ってくる


「降り注いでいでっ!!」


言葉に呼応し、光がビッククラブの身体に襲い掛かる

光の粒子に襲われながら、暴れまわるビッククラブ

その間にも甲殻を砕いても、尚も降り注ぐ


「…この光ですら、シア君の魔力なのか?

いや、にしては異質」


ビッククラブの動きが止まった、やった?

ボク、勝った?

力が抜けて、その場に座りこんだ

疲れた、足元の魔法陣も、光の粒子もなくなっている


「大丈夫かい?」

「なんとか、あ、お願いがあります」

「ん?なんだい?」


マーカスさんに向かって両手を広げ、上目遣いに見る


「おんぶ、してください」


ぷっ、と吹き出し大爆笑された

むぅ、そんなにおかしな事言ったかな?


「いいよ、しよう」


しゃがんで、背を向けてくれた

ボクは、失礼しますと言ってからもたれ掛かる

ゆっくりと立ち上がり、来た道を戻る


「いやー、楽した楽した」

「本気で言ってます?」

「勿論だとも、攻撃を躱すのに専念してたし」


まったく、この人は

って目蓋が重い、でも眠っちゃ


「慣れない事して、疲れたろ?

眠っていいよ」

「はぁ…い」


暖かい温もりに安心し、僕は目蓋を閉じた

「おやすみ」という声を聞いた気がした


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ん…あれ…ぼ、くは?」

「おや、起きたかい?」


あれ?マーカスさん

そうだ、帰り道に僕は―――って、ここ街道?

空が夕焼けで赤く染まっている、なんで?

坑道は砦は?


「あの、砦は?」

「ああ、用は終わったよ。報酬は貰ったよ」

「あ、あの、降りましょうか?」

「ん?いいよ、このままで君は軽いからね

ちゃんと食べてる?」

「食べてますっ」


あっははと笑うマーカスさん、うう、砦でも眠りこけてたのか僕は

恥ずかしい


「あの騎士は君を見て娘を思い出してたね、機会があったらまた依頼を出してくれるそうだ」

「そ、そうですか」


早く着かないかな、もう


「しかし、君のあの力には驚いた

アレはどうやったの?」

「無我夢中で、さっぱり」

「ふーむ、そう」


アレが多分、2つ目の特典なんだろうな

だけど、発動条件が分からない


「悩むがいい、若者よ」

「からかわないでくださいよ」

「はっはっ、バレたか

さあ、帰るよ」


帰りたい、僕の居場所に

そう願いながら、また瞳を閉じた

なんだか、最終話辺りに出そうなタイトルですが続けていきます


楽しんでいただけたら幸いです

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