第16話 僕と貴女
小鳥の囀りが聞こえる
ん?
まぶしっ、あさ?
昨日は、最悪だった
夜ご飯の時も、弄られて赤面しっぱなしだった
いっそ、このまま寝てよう
アレ?隣がなんか、暖かくて柔らかいな
この温もりが何か分からなかったけど、手放したくなくない
ぎゅうと抱きしめる、なんか落ち着く
「おやおや、まだ寝ぼけてるのかな?」
からかうような声に、僕は「あと少しだけ」と呟き顔を埋める
ドクンドクン、と音がする。何の音か分からない。
「ね、知ってる?心音は一番落ち着く音なのよ」
「そう、なんだ。物知りだね、ねーさん」
「銀髪と金髪の姉妹か、悪くないわね」
姉さんにしては、優しい声色だなと感じた、子供の頃はこんな風に一回だけ優しくされてた記憶がある
笑い声が聞こえ、背中に手が回されぎゅうとされた
微睡んでいたい、このまま、せめてこのまま
「ユウキ、シアは起き…って」
「あ、おはよう。リント」
「…何してるんだ、君らは?」
「あまりにも気持ちよさそうに眠ってたから、布団に潜り込んだら、寝ぼけてるみたいで、甘えてきたの」
「ん。だれ」
「あらら、もう起きる?」
背中に回された手が離れた、僕は眼をごしごしと擦る
アレ?リントさんだ
じゃあ、さっきのは夢?
「おはよう、シア」
「おはよう、ございます、リントさん」
「あら、お姉さんに挨拶はなし?」
「ごめん、姉さん
おはよう…って、ユウキ!?」
隣からする声に返事をして、横を向くと優希がいた
笑顔で、「おはよう」と返すと僕を抱き寄せた
「うわぁ!?」
「はいはい、暴れない暴れない
さっきは、自分からくっついてきたくせに~」
さっき?えっ、さっきのは夢じゃ?
えっ、いつ、誰にくっついた?
あ、いや、あれは寝ぼけて
「あわわ、えっと、なんでいるの?」
「やだな、昨日の夜からいたのに。パパエルフと言われて困惑してたわね♪」
やめて、思い出したくない
ふるふると、首を振る
「それで、私ね
シアとお出かけしたいな、と思って」
えっ、僕と?なんで?仕事は、終わったんだろうか?いや、そんなハズない
だって、後二日残ると言ってたし、つまりは今日まで仕事と言うことじゃ?
「ふっふっふ、仕事は昨日までなんだな~
で、昨日は報告して貰った内容を書類にしてだね」
えーと?だから、ヒマだと?
「で、どうかな?シアは私と出歩くのイヤ?」
「イヤじゃないよ、突然でびっくりしただけ、分かった」
「ありがとー」
うわっ、離れてって、びっくりするっ
リントさんに救いを求めようとしたら、いなかった
「リントは、仲良くしなと言って自室に戻ったよ」
「そうなんだ、えっと、どこか行く予定があるの?」
「そうねー、じゃあまずは―――」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
白いワイシャツに紺色のショートパンツに着替えてから、優希は赤の着物にやっぱりフリルがついた物を着ていた(和風ロリータという奴なんだろうか?)拠点の外にいる
「ねえ、なんで僕らは喫茶店にいるの?」
優希の提案でいるわけだけど
向かいの席に座った優希は、ゆっくりとした動作で紅茶を飲んでいる
「だって、時間帯的にこの店開くし
文句あるなら、9時まで眠らないことだね
それとも、朝食を抜きで過ごすと?」
「う、悪かったよ」
「分かったら、食べて食べて
お姉さんが奢ってあげるから」
「姉さんはやめてよ
それより、いいの?」
目の前にあるパフェと優希を交互に見る
優希は、頬杖をついてにっこりと笑った
「うん、貴女と仲良くなってみたいし
ダメかね、友達?」
「だ、ダメじゃない
僕でいいなら、喜んで」
「そ、良かった」
友達か、旅団のみんなは仲間で友達ではない、望めば、ミリアさんはなってあげるとか言ってくれるかもしれないけど
今の僕に優希は年齢が近いし、いいのかもしれない
「美味しい?」
「うん、美味しい」
「そ、良かった
実を言えば、私はね、旅団を飛び出しておいて気になってたの」
「…何の話?」
「ただの独り言
王都には、目的があっているけど季節が変わる度につい気になって」
カフェをスプーンでつつくのをやめて、顔を見る
横顔を向けて、店の外を眺める優希
「これでいいのか、私は旅団に戻るべきなのかって悩んでたら、今回の一件があって、この町に来たんだけど」
「けど、安心した
貴女がいた、私の抜けた場所に。今は貴女が旅団のメンバー、君は見てて飽きないってマーカスも言ってたし、だから、お礼も兼ねて、ね」
何か言わなきゃとは思うけど、上手く言葉が出ない
優希が悩み事を打ち明けてくれた、なら僕はそれに対し、何か言わなきゃいけない
「しー、いいわ
シアは、私と一緒みたいだし」
自分の口に指を当てて、ウインクする
一緒と言う言葉の意味が分からなくて首を傾げる
「きっと、理由があってここにいるのね
寝言で、『生きたい、みんなゴメン』と言ってたから」
うわ、そんな事言ってたのか僕は
しかも、聞かれてたとか穴があったら入りたいっ
「私は、14の時にここにいた
知らない世界、生まれて初めて見た外の景色」
「優希」
「なーんてね、この話はおしまい
さ、まだまだたくさん遊びましょ?」
僕は、無言で頷いた。彼女の友達になりたいと本心から思った
いい子ねと笑って、頭を撫でられた
その後も、優希と色々な場所に行った
楽しかった、学生時代に戻ったようで凄い楽しい
「む、アッチからなんか来るわね?」
「え?」
優希の指差す方を見ると、なんかオッサンが不釣り合いなカバンを片手で持って走ってきてた
その後ろに、おばあさんが息も切れ切れに追いかけてる
「ひったくり、か」
「そうね、ってシア――」
僕は、走ってオッサンとの距離を詰める
今日は、武器はない
止めるだけだし、問題ない
僕が迫ってくるのにぎょっとしするも、真っ直ぐ来るオッサン
「どけや、クソガキ!!」
僕は、膝を曲げて相手の腹に当てる
「ぐっ、テメエ、クソがぁ!!」
怒りに任せて、腰から短剣を右手で抜き振り回すのを落ち着いて避ける
オッサンが突き刺そうとしてくる、それを回避すると同時に右腕で右手の袖口を掴み固定してから、ぐっと引っ張り寄せ素早く相手に背を向け、一気に背追い上げ、地面に叩き落とす
「おぐあ!?」
オッサンは、倒れたまま何が起こったかは分からないといった表情だ
落としたカバンはら優希が取り、おばあさんに渡していた
「なんだありゃ?」
「あんなちっこいのが投げたぞ」
「あのお嬢ちゃん、リントやミリアちゃんとよくいる子だろ?」
「とりあえず、確保だろ」
「おし、お嬢ちゃん、後は任せな」
「あ、はい。お願いします」
僕はぺこりと頭を下げてから、優希の所まで行く
「あらら、背負い投げにしてはどこかおかしいやり方だったような気もするけど
ま、面白いものが見れたから、よしとしましょう」
「あはは、かえろ?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
優希の泊まってる宿の前に着いた
「そうね、今日はありがと
楽しかったわ」
「僕も楽しかったし、友達が出来て嬉しかった
ありがとう」
「良かった、じゃあ明日、見送りしてくれる?」
「いいけど、何時ごろに出るの?」
「早朝の6時かな」
6時か、早いな
でも、僕は両手で優希の右手を握りしめた
「ちゃんと見送りする」
「そっか、楽しみだわ」
そこで僕らは別れた
明日、ちゃんと見送りしよう
この世界で初めて出来た友達の旅立ちを
背負い投げについては、自分のうろ覚えの記憶では不安だったので
Wikipedia先生を読んできて、自分なりにこうやるんじゃないかと、解釈して書きましたが
おかしな点がきっとある事でしょう
文才さえあればっ!!
最後のところは、ただ背負い投げを書きたくて加えただけなんです。はい。
※正しくは、一本背負投とのことでした。教えていただきありがとうございますm(__)m




