第12話 二つ目の特典
「……あ…」
忘れてた、マーカスさんは『5体』と言ってた
なら、まだ2体いるはずで
振り向けば、みんなが驚いた顔して固まっている
僕のお腹に刺さる『コレ』は、その残りのものになる
痛い
痛くて力が抜けて、手に持った剣を落としてしまった
「…あ、う…あぁ」
前を見れば、無傷なのが3体もいた
もしかしたら、最初の咆哮は仲間に知らせる為?
足が、僅かに浮いてきた
なんて事だ、失敗した
やだ、死にたくない
「シアちゃん!?」
「…ちっ、増援か!!」
必死に突き刺さった腕を掴んで足掻くけど、びくともしない
そんな抵抗する僕を、突き刺してる奴は上に持ち上げた
嘘だ、まさか…
ソイツは、僕を高く持ち上げて、投げ捨てた
勢いよく投げられ、景色がぶれている
一瞬過ぎて…よく、わからなかった
ただ、何かに当たって止…まった
身体中に襲ってくる傷みと視界が赤く染まり霞んできた
「かは、ぁ、ゃ…やだ…死に、たく」
ない。最後まで言葉はでなかった
死にたくない、死にたくなんかないのに
痛い、死にたくないから、ここに来たのに
ごめん、ね…無理
(シア、君はまだ死にたくはないだろ?)
誰?
……うん、死にたくない
(そう、じゃあどうする?)
どうする?
どうしたらいいか分からない
…だけど、生きたい
(過去を
かつての自分を対価として支払ってでも?)
対価?
よくわかんないけど生きれるなら、いいよ
死にたくないから、異世界にいるんだから
(そう
わかった、すまない
君に与えた2つ目の特典の条件を満たしているんだ。解禁しよう)
誰だっけ?今の声?
分からない
でも、何処かで聞いた気もする
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
シアがやられた、迂闊だった
彼女を止める事ぐらいできただろうに
また、失うのか
ミリアは、シアが投げ飛ばされた方に向かってしまった
厄介な事に、そこへ一体向かってしまった
回復に集中してしまっていたら、無防備だ
「リント、早めに終わらせないと被害者が増える」
「…わかってる」
そうだ、それを阻止する為にも
先ずは残ったのを片付けなくては
私は、震える拳を構え直した
「すまないが、今は、すこぶる機嫌が悪い」
貴様ら、生き残れると思うな
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
…確か、こっちに投げ飛ばされたはず
もう、自分が情けなくて仕方ない
あの娘に助けられてお礼も言わないで、しかもあんな光景を見てるだけだなんて
「…だったら、見捨てられる訳にはいかないでしょうが」
居た、血溜まりの中で倒れている
折角の綺麗だった肌や金髪を、血で赤く染まってしまっていた
「シアちゃん!!」
駆け寄ってみて、状態を見て理解してしまった
理解したくなんかなかったけれど
顔からは、血の気が感じられない
弱々しい呼吸は、すぐに止まってしまいそうで
手遅れに近いと判断できた
「嘘、よね?」
回復したところで助かる見込みは、なさそうだってわかってしまった
「ウグルゥオォオオオ!!」
「なっ!?」
こっちに、コイツも来てたの!?
だけど、やらせない
コイツの好き勝手になんかはっ!!
シアちゃんを抱えて、とにかく走る
両腕を伸ばしてくる、それを避けながら走るのはキツい
殺されるのも、あの娘を好きにさせるのもお断りなんだから!!
くっ、冷たくなってきてる
「しつこいわね、アンタは!?」
距離を開けても、あの攻撃されては意味がない
でも、雷属性の魔法はあまり有効ではないし
見事に詰んだわね
って、行き止まり!?
「…ごめんなさいね、シアちゃん
ここまでみたい」
情けなくて泣いてしまった、涙がひとつまたひとつと溢れて、彼女の顔に当たる
ードクン
「え?な、なにっ?」
ードクン、ドクン
心臓の鼓動?でも、こんなにはっきりと聞こえる筈がない
それにこの魔力の奔流は何!?
「グルゥオオォオオ!!」
しまったっ!?
思わず、瞳を閉じる
………?
……
…?
「何ともない?」
恐る恐る、瞳を開ける
目の前には、魔法陣が出現していて化け物の攻撃を防いでいた
バチバチと、火花を出しながらもびくともしていない
シアちゃんの方に視線を移す
身体を淡い碧の光が包んでいた
彼女の傷が、ゆっくりと独りでに治っていく
「何が、どうなって」
こんなの聞いた事もない
空と地面にも浮かび上がる魔法陣
それが一筋の光の柱になり、空を碧色に染め上げた
すると彼女の目蓋が、ピクピクと痙攣し、ゆっくりと開かれた
金色の瞳を輝きながら
「う、ううん
…ミリアさん、痛い」
「シアちゃん!?
貴女、大丈夫なの?」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ん、大丈夫
僕に任してください」
「任すって、大丈夫なの?」
「多分、平気」
手を開いたり閉じたりしてみる
感覚はある、何だか寝起きみたいにぼんやりしてるけど
あの化け物を倒さなきゃ
手を前に翳して、身体を巡る魔力を意識する
手に集中させて、撃つ!!
光の渦が、化け物を飲み込みながら一直線上に飛んでいった
村の一部も削り取ってしまった
手から放出された魔力が収まる、化け物は倒せたかな?
でも、ミリアさんは無事だしいいか
「ミリア、無事か!!」
あっ、リントさん達だ
よかった、所々がボロボロだけど無事だったようだ
「良かった、無事だった…って、シア君!?」
「あ、はい…ご無事で何よりです」
「お前は、大丈夫なのか?」
やたら眠いです、なんか疲れました
あっ、なんか光が降り注いできてる
「えっと、無事だけど眠いです」
「おやおや、そう?
それは、良かった
ここだけの話、リントなんかもうー」
「ー何か、言いましたか?」
「いや、なーんにも
さて、帰ろうか」
その言葉を聞いて、安心しちゃったのか力が抜けた
「おっと、仕方ない
私が拠点まで運ぶから眠るといい」
「は…い、ありがとう、ございます」
リントさんに従って
身体中を襲う気だるさや睡魔に任せて、僕は瞳を閉じる
おやすみなさい
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「眠ったか、よく回復が間に合ったな」
「……」
「ミリア?」
何か考えているようだが、どうしたんだ?
「ミリア、何があった?」
「独りでに傷が治ったのよ」
「本当かい?」
「ええ、それと高密度の魔法陣が現れて、彼女を」
…そういえば、瞳が光っていたな
アレもその一部か?
分からない
「ふむ、一致点は瞳だけか
彼女には、そんな能力はなかったしな~
こればっかりは、本人に尋ねるしかないか?
よーし、わかった
とにかく、帰らないかな? 」
「ええ、賛成
リント、ちゃんと運ぶのよ?」
「わかっている」
「お姫様抱っこは、どうだい?」
「お断りします」
彼女を背負った
落ちないように、しっかりと支える
「やれやれ、おんぶか」
「夢のない男」
「なんか、言ったか?」
「いーえ、なにも」
やれやれ、疲れる
しかし、団長は何か知ってるな
疑う訳ではないが、怪しい
とはいえ、追及してもはぐらかされるだけか
「ふぅ、疲れたな
帰ろうか」
空を見上げれば、淡い光が雪のように降り注いでいる
これも、シアがやったのか?
まあ、今は止めよう
全員無事、それだけでも充分だろう
視点がコロコロと変わってしまって、スミマセン
どうしても、こうしたかったもので。つい
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