第11話 嫌な感じと、失敗
今、僕らは舗装されてない道を岩をよじ登ったりして進んでいる最中です
「で、例の廃村はどれくらいかかるの?」
「ん~、あと、20分くらいかな?」
「あれから、3時間も歩いているんだが」
マーカスさんが、ミリアさんの質問に懐中時計を取りだして答えた
リントさんが、不満を漏らす
「しょうがないだろ?
馬車は、使えない場所にあるんだから」
「だがな、なんでまた
街道を外れるんだ」
「それは、廃村に文句を言ってくれ」
「廃村は喋れないだろっ!!」
「リントさん、落ち着いて」
「くっ
すまん、私が大人げなかった」
僕は、リントさんを宥める
僕の言葉に、謝ってくれた
あれ?マーカスさんにではない?
「あれ?
それじゃ、僕が子供みたいじゃないか」
「そう聞こえましたか?」
「ああ、聞こえた」
「では、そう言う事です」
「酷いや!!
僕の方が年齢的な意味でも大人なのに!!」
「…なら、相応の振る舞いをお願いします」
「やなこった」
「いつも通りのやり取りね」
「はあ、そうですか」
そもそも、こうなったのは昨日まで話を遡る
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「明日は、少し離れた場所に行き
デイビット以外の面子で仕事しまーす♪」
突然の発言にあんぐりする
リントさんは、片手で顔を覆い溜め息を吐く
ミリアさんは、何度も瞬きをしてマーカスさんを見ている
あ、あんなミリアさんは初めて見た
僕も、理解が出来ずに何も言えない
「俺は構わねえが、説明しろや
坊主どもが、固まってる」
「おおと、すまない
飲み友達の冒険者が、ボロボロになって訪ねてきてね
彼は、ハンマー使いとしてはかなりの熟練者なんだけど
取り乱してて、彼が言うには依頼で向かった廃村で化け物をたくさん見たらしい」
「化け物?新種の魔物かしら?」
「ああ、僕もそう思ってる
でね、話を聞いてたんだが
その化け物は、彼の仲間の魔法を受けても怯まず襲ってきたらしい
しかも、自分の仲間が倒されても気にしない様子で」
「マジか
気味悪いな、オイ」
え?魔法をくらって怯まない?
何、ソレ?
どんな魔物ですか?
リントさんを見ると、腕を組み考えこんでる
「えっと、倒したんですよね?」
「ああ、仲間の死という犠牲を払って10匹はね
彼が見た限りでは残りの5体は、死体に群がり
引きちぎったり、かじって捨ててたそうだ
ソレを見て、恐怖感に襲われて逃げ出したんだと」
「…で、どんな奴なんだよ
ソイツは?
「人型で、白い体
赤い瞳で口が異様にデカく
爪が長い両手
その両手が伸びる不気味な奴らしい
体格はバラバラ、細いのもいれば、横に太いのや小さいのもいたそうだ
生き残ったのは、太い方」
「軍に任すべきじゃないか?」
「アイリス国の軍にかい?
今の時期は、大規模演習があるからなー
来るかな?」
アイリス国は、この世界の大きな国のひとつで
ひとつの大陸の半分を治めている
この町は、その国の領土内にある
…今、思い出した
「やらざるを得ないか」
「そう言う事さ、僕らが倒し安全を図る
彼には、町長に報告しに言ってもらった
僕らも、倒したうえで化け物の一部なりを持って報告すれば国が動いたらといいなー、って考え」
最後だけ投げやりだった
大丈夫なのかな?
「デイビットには、僕らに何かあった時に頼むよ」
「おう、無理だけはすんなよ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
で、現在に至る
なんか、空が曇ってきた
やな感じがする、上手く言えないけど、凄くやな感じ
「どうしたの?」
「うん、何だかやな感じだなって」
「そうね、私もそう思うわ」
「…二人とも、例の場所が見えてきた
武器は構えておけ」
「ええ、わかってるわ」
「はーい」
リントさんの指示通りに、僕も剣を抜く
ミリアさんも、槍を構えた
「ミリアの槍には、雷の術式が刻まれていてね
武器として使うと雷を纏うんだよ」
「へえー」
「そんなに大したことじゃないわよ?
私の場合は単なる護身用、メインは魔法なんだから」
「今回は、護身用とは言え使わざるをえないだろうな」
「わかってるわ」
廃村に着いたようだった、様式を見回してみる
古びて朽ちた家の残骸
がいくつも建っていた
血がこびりついた壁、持ち主を無くした武器が転がっていた
そして、引きちぎられたヒトの一部
「っ!?」
「シア?大丈夫か?」
「は、はい、なんとか」
「無理はしない、落ち着くまでは傍にいなさい」
胸に手を当てて深呼吸、駄目だ、心臓がバクバクしてる
「例の、化け物は?」
「わかんないね、もう居ないといいがね」
「団長
残念だが、そうはいかないらしい」
リントさんが、指差す場所を見る
古びた井戸のある場所に、ソイツは2体はいた
マーカスさんから聞いた通りの姿
ブヨブヨとした太い体、血のように赤い瞳、顔の半分はある口
アレが?
「…まだ、こちらには気づいていないようだが」
「リント、ひとつ良いかな?」
「何ですか?」
「勝てる気が微妙にしない」
「……同意します」
「ちょっと、諦めるの!?」
「冗談だとも、依頼を受けた手前
逃げる事はできない…行くか」
マーカスさんが走り、接近した
その後に続いて、リントさんも接近する
ソレで気付いたのか、化け物達は、ゆっくりとした動きで向きを変えて二人を見て口から涎を垂らして
「グルゥオォオオ!!」
「グゥオォオオ!!」
咆哮した、涎を撒き散らしながら
「…さて、我に仇なす害敵を貫き、打ち砕け
雷の鉄槌ーー『ライトニングハンマー』」
ミリアさんの詠唱により、発動した魔法が頭上から撃ち落とされた
だけど、びくともしない
「グゥオォオオ!!」
「…あまり効いてないみたいね」
「そんな」
「落ち込むのは早い!!
さあ、行こうか。我が声に応え、灼熱の炎を持って貫きたまえ、『フレイムランス』!!」
マーカスの右手に炎が現れ
ソレを、ミリアさんの魔法を耐えた奴目掛けて、ぶん投げた
一直線に腹に当り、貫いた
「グルゥオォ!?」
「コイツも貰ってくれ」
リントさんが、貫かれ穴の空いた腹に蹴りを放った
「グルルゥオオ!?」
絶叫し、よろけた
凄い、圧倒的じゃないか
勝てる気がする
「なっ!?」
突然、リントさんとマーカスさんが、それぞれ左右に跳んだ
何が起きたかはわからなかった
ソイツの、腹を貫いて伸びてくる両腕を見るまで
「グルルゥオオ!?」
後ろにいた、もう一体が攻撃していた
えっ、同種を貫いた!?
腕は、僕らのいる位置の手前で止まった
「なんて、無茶苦茶な奴よ」
「…なら!?」
僕は、剣を掲げて伸びきった腕に降り下ろす
ブヨブヨした感覚で、しかもめり込むだけで切れない
「厄介ね、コイツは!」
ミリアさんが、槍を振る
それは、左腕を切断出来なかった
「…………」
腕が、元の長さまで縮んだ
貫かれた一体は、倒れて泡を吹いている
ソイツをマーカスさんが魔法で焼いた
絶叫し、動かなくなる
「残りは、1か?」
「今のところはね
同胞も必要なら巻き込むか、恐ろしい」
「距離を取れば安全ですよ」
「下がるのは得策じゃないな
しかし、これなら彼が怯える理由が分からない」
「我々とは、対峙した数が違うのでは?
来ますよ」
両腕を左右に広げ、また伸ばしてきた
でも、その攻撃は二人を素通りしただけで当たらずにちょうどあった木を掴んだ
そして、後ろに後退りしていた
「…まさか」
いや、ありえないけど万が一もあるし
僕は、ミリアさんの腕を掴み細道に入る
「ちょっと、どうしたの?」
言い終えるのと同時くらいに、視界をアイツが横切った
パチンコの玉じゃないんだから飛んでくるなよ
「…嘘」
「や、嘘じゃないなみたいです」
細道から出た
さっきまでは、リントさん達が正面だったけど
今は、僕達が正面から対峙する形になっている
アイツは、また両手を伸ばす動作に入っていた
僕は、走って突き進んだ
後ろで、ミリアさんが何か言ってるけど
ソレよりも、アイツを倒さなきゃいけない
攻撃を避けて、顔に向かって剣を投げる
アイツの頭に突き刺さった、頭を運良く貫いてる
腕がだらしなく地面に伸びきった状態で動かなくなる
剣を引き抜いてみたが、ゆっくりとした速度で倒れただけで動かない
倒せた?
そう思った僕のお腹が急に熱を持ったみたいに熱くて、痛くなった
「……あ…」
ゆっくりと見下ろせば、何か白い物が生えて
違う、突き刺さっていた




