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組曲『組織崩壊 序曲』

 1


 時間を少し戻して。

 ムツと阿部姉妹の戦闘が中盤あたりにさしかかっていたときの事、黒島一嶽は長男の嶽満とともに三名の組員を護衛につかせなが脱出をはかっていた。そして、裏口の戸を引いて出た途端に、上下が黒と赤いネクタイ姿の男からハンドガンにて手前の組員二人を射殺されたすぐに、後ろから振り下ろされてきた“異様に長いドス”により残りの組員の頭をかち割られしまい、一嶽かずたけら親子は剥き出しとなった。これには、いくらアウトローに生きる男にとっても顔を強ばらせざるえまい。そうして、後ろの暗闇から幽鬼のように姿を見せてきた『赤い王様コートの、顔に疵を持つ女』へ目をやるなりに、じぶんらの強面など棚に上げて息を呑んだ。

「ああ赤城冴鋭か! 貴様、なんでオイたちば裏切ったっや!?」

 ここでとっさに吐きつけた一嶽は、大した者と云える。しかし、そのひと言を受けた当の女の表情は、とっくの昔に見切りをつけていたと語っていた。場合によっては直に叩きつけた方が良いから、一嶽ら親子へと感情のままに投げつけていく冴鋭さえ

「裏切ったもなにも……。一嶽さん、いや、黒島組のやってきた尻拭いをやらされるのはもう、正直云うて“たくさん”やったとさな。―――今の今まで、じぶんらで撒き散らした糞はテメェらで掃除して、そのきたねぇケツ拭かねぇから“こうなっちまった”んだろうが」

 剥き出す犬歯と相まって、歪められた口許から耳元まで走る切り傷が、冴鋭に残忍な笑みを浮かべさせているようであった。

「赤城……貴様、こがん事してタダで済むと思おとっとか。―――だいいち、オイたちば潰してしもうたらお前ら含めた龍燈会は身が持たんぞ」

「んふふふ、龍燈会じたい持ちつ持たれつが出来なくなるってか……?―――なぁに、心配する事なか。組織のことは、ウチら(赤城組)が支えられるように根回しと準備はしとったけん、アンタら一族が消えても支障は無かぞ」

「こん糞餓鬼ゃあ!!」 一嶽の怒号とともに、銃声が鳴り響いた。しかし、冴鋭を狙って撃ったはずの銃弾は天井へと逸れてめり込んだ。と同時に、一嶽が躰を大きく仰け反らせて、顔から赤い飛沫を高らかと噴き上げながら倒れ込んだのである。何事かと嶽満はその先へと目を向けたところには、四本腕を誇らしげに広げたムツの姿が。こみ上げてきた震えを体感しながらも、やられてたまるかと上着の影からハンドガンを引き抜こうとした嶽満の手を、飛んできた出刃包丁により胸板に縫い付けられてしまった。ついでに、その切っ先が心臓を貫いたらしく、男はたちまち青ざめて、顔じゅうに小粒の汗を噴き出していき、吐く息も小刻みに切れ切れとなってゆく。そして、ついには膝を床に落としたそのとき。

 嶽満の霞む視界で、横一線に走る煌めきを見た刹那、景色はまたたくまに反転をして“床に頭突きをした”あげく、ムツと思しき裸足の指先が逆さまに映ったその後、意識が完全に途絶えてしまった。撥ねられた頭を床へと落とした嶽満たけみつの躰は、肉の断面から豪快に血の噴火をおこしていきつつ、うつ伏せに倒れ込んだ。



 2


 それから、移動中の車内。

 冴鋭は労いもほどほどに、隣りで頭巾を脱いでいた少女へと話しかけていく。

「よくやったぞ、ムツ。次はお前の姉さん達と合流して、このまま一気に(黒島組東京都支部)本拠地になだれ込むが、次までやれるか?」 リン姉さんたちに会える。これを聞いた途端に、ムツはたちまちそのつり上がった瞳を見開いて、輝きを出していった。当然の反応だったと云えよう。なにせ昨晩のムツは、リンが警察に捕まって尋問を受けているとの知らせが届いたときに、ハク以上にソワソワハラハラと落ち着きがなかったのだ。そして、口元にはわずかながらの笑みを浮かべた。

 このような愛らしさに溢れた表情を見せられた冴鋭は、思わず抱きしめてやりたくなった衝動を抑え込んだのちに、かわりにそのザンバラのショート頭を撫でていく。

「ああ、そうだ。(ムツの)大好きなリン姉さんと会えるんだぞ」



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