姉妹の協力者
同日。
時間は朝を少しまわったところまで遡る。
ワインレッドよりも深い赤色に塗られたフェアレディZ(ボンネットの長い型)の中、運転席に上下黒のスーツに赤いネクタイを絞めた男。後部座席には白いファーで襟から裾までと袖口に縁取りした赤い王様コートを両肩に掛けた、胸元を大胆に深くV字に開けたブライトレッドのシャツと赤黒いGパンに白のエナメル靴に身を包んだ、艶やかな黒髪セミロングの精悍な女が座っていた。この女は、赤城冴鋭。龍燈会赤城組の組長。その顔の造形は至って美しく、身長は百七〇にも達し、道行く誰もが見とれてしまうが、いかんせん、口元から両耳にかけて大きな疵を持つほかに、左頬を斜め下に走るのと額から右目を縦に通過する切り傷を刻まれていたために、美しさより恐ろしさが際立っていた。
このような女組長の隣には、恐れる様子などなく、どちらかといえば馴れた感じで中肉中背の少女らしき者が腰を下ろしている。足首までかかる白いワンピースに、赤と茶褐色とが“まだら模様”になった頭巾の付いたマントを纏っていた。口元からでもうかがえほどに、その整った顔を隠すかのごとく深く頭巾を被って、虚空の一点を見つめていたのだ。腰元にはMDプレイヤーと、両耳にアイアン鍍金のヘッドホン。そして何よりも、マントを肩のあたりまで盛り上げている、大きな『瘤』のような物が目立っていた。だが、しかし、背筋は曲がっておらず、むしろ上品さの伺えるくらい伸ばしていたのである。
後部座席の女と少女との間には、決して険悪な空気など無くて、親しさが見てとれた。
沈黙していた車内で、冴鋭が話しかけてゆく。隣りの少女を、まるで妹か姪っ子と思うかのように。
「ムツ(六)。あと少しでご両親の無念をはらせるからな」
名を呼ばれた少女は、頷く。
幾人もの血を浴びて、滲ませて染み付いた“まだら模様”の赤頭巾へと手を伸ばして、白く細い指で撫で下ろしていき、幼さの残る膨らみの頬を伝い顎に添えた。この一連の動作に、ムツは嫌がる素振りすら見せず、逆に、瞼を閉じるなりに冴鋭のほうへと頭を傾けてきた。この少女は、冴鋭と居ると心地良さそうである。
やがて白い手を戻した冴鋭が、ムツに語りかけていく。
「なぁ、これが終わったら。お前たち、ウチのもとに来る気はないか? 決して食うには困らせない」
そのひと言に顔を向けて微笑んだのちに、ゆっくりと首を横に振った。この反応に、冴鋭は物悲しそうな表情を一瞬のみ浮かばせる。そして、運転席に向き直った。
「そうか、そうだよな。―――解った。その代わりと云っちゃなんだがな、既に(お前たち姉妹を)遠くへ飛ばせる手配はしてある。……どうだ」
すると今度は、ムツから冴鋭の優しく手をとるなりに、掌へと指先で「ありがとう」となぞった。この答えに、女が疵の走る口の端を歪めてひと言。
「いい子だ」
そうして、フェアレディZはとある門の前に停車した。