都内暴力団事務所連続襲撃事件
同日の、昼下がり。
東京都内警察署内部。
視聴覚室には、男二人と女ひとりの刑事たちが、六つのブラウン管と睨めっこしていた。それは、今朝方とある暴力団事務所で起こった、組員全員を殺害したという事件の検証のためである。このような連続殺害事件は、ここ一年間も続いており、被害の対象は全て暴力団に傾いていた。これには、都内の住民たちに限らず、ほぼ日本列島全体にまで、及んでマスコミや新聞などの報道機関をも巻き込んでわかせていたのだ。しかし、警察機関から云わせてもらえれば、連続殺人事件には変わりない。
鬼堂獣蔵刑事がモニターから顔を離して目を瞑り、一旦“みけん”を指でつまんだのちに、ポケットに手を突っ込むなりに切り出した。
「奴さん、よほど顔を見せたがりたいらしいな」
「隠そうとも思っていないよな」
こちらの箕島貞次朗刑事も、こう溜め息混じりに呟きつつ椅子ごと身を引いて、指で弾いた煙草を一本くわえる。そして、ジッポーで点火。男二人に挟まれながら、中央で画像を操作していた犬神夏江刑事も、椅子ごと画面から離れるなりに両腕を天井にとどくほどに伸びをして、灰皿を箕島刑事に「はい」と渡して口を開く。
「全く。この赤頭巾ちゃんたちは、揃いも揃ってやりたい放題やってくれるものね」
次に机に頬杖を突いてキーボードを打ちながら、この事件に関する映像をブラウン管に並べてゆく。
「ここまで堂々とした犯罪も、感心するわね。―――ねえ、この女の子たち三人の何か物証は、ひとつくらい採れないの?」
不満げにギロリと箕島刑事を睨みつけて、尋ねた。これを喰らった男は、思わず顔を真っ赤にして咳き込んだ。
「んな無理なこと訊くなよ、夏江。この赤頭巾たちは物証を“いっさい”残さないプロフェッショナルだぜ。なにかひとつでも残っていたら、検死課の神楽さんが“えらいこっちゃ”して喜ぶだろーよ」
「し、署内では、名前で呼ばないでって云ってあるでしょうが。―――バカ……っ!」
「お……。すまん」
灰皿で吸い殻をこねくり回す箕島刑事へと、そう言葉を投げつけた夏江刑事は、頬を赤くして顔を背けた。
これらモニターに映し出されている“三体の”赤頭巾たちの襲撃方法から武器の使用に至るまで、見事なまでにバラバラであった。
まず長身の赤頭巾は、画面からでも確認できるほどに露出した肌の色が異常なくらいに白く、または色素を欠いているものと思われる。次に華奢でやや小柄な赤頭巾に移ると、この中で一番か細い印象のあるにもかかわらず、体格差のある組員をねじ伏せたり蹴飛ばしたり、しまいには地肌で銃弾を跳ね返していた。最後に三体のなかでも中背で画面上からも解るほどにグラマラスな赤頭巾に至っては、その犯行方法が不明であった。それは、署内の鬼堂刑事を含めた捜査員たちからは『瘤』と呼ばれており、この中背の赤頭巾は暴力団事務所に入り込んだ途端に四方へと何かを飛ばして各所に設置されている監視カメラを破壊していたからだ。
以降の現場捜査から、放たれたそれらの武器は、鉈と包丁といったことが判明した。これらの刃物は使い捨てらしく、採取できた指紋も都内住民ましてやこの日本じゅうの女の物とも一致しなかった。こういった結果から、三体の赤頭巾は身元不明者と解っただけでなく、現存する人間とはまた別の異形の者たちであることが浮き彫りになったのだ。
それは、陰から姿を現した、常人たちとは全く異なる者たち。表面上は女の皮をかぶっているが、その実体は何者にも当てはまらない『怪物』であった。
そして最後にもうひとつ。
赤頭巾たちが犯行を終えたあとの現場の壁には。
「穢れた狼共を、狩り致して候」
というふうに、組員らの血液をもちいて、堂々と血文字が必ず書かれていたのだ。