扉ー04
その部屋から出ると、細い廊下が続いた。
天井は高く、廊下は部屋と同じで飾りもほとんどない。
途中に扉がいくつかあったが、そこには見向きもせず、まっすぐ廊下を進んでいく。
しばらく歩くとひときわ大きな扉があった。
ドアには何か、大きな樹のレリーフがあった。
カイはドアに向かってそっと手をかざし何かをつぶやく。
すると、扉は静かに開いた。まるで自動ドアだ。
「ここにも自動ドアはあるの?」
「自動ドアだと?そんなものはない。今のは、私の呪文で開いただけだ。」
じゅ、呪文・・・。
そんなもので扉が開く世界ですか。
・・・開けゴマかよ・・・。
しかもこの人、自動ドアって言って通じてるよ。
他にも絶対いろいろ知ってるはずなのに、本当に私に話す「権利」って何よ、いったい。
扉の先は森の中だった。
振りかえると森の中にいきなり大きな、砂色の岩山。
私たちが出てきた扉は、その岩山のなかに埋め込まれているように存在している。
どこかの神殿っぽいって思っていたけど、岩山を掘って作られたものだったのかしら。
外国の修道院にそういうのあったような気がするけれど。
って、いずれにしろ私のイメージでは、ああいう建物って宗教関係なのね。。。
あ、もしくはどこかのテーマパーク?
お昼食べ損ねたのかな…お腹すいたな…。
そう思った瞬間、大きな音でお腹が鳴った。
「っ・・・・!」
さ、さすがに、恥ずかしい!!
「ああ、何か食べるか。」
カイはそういうと、私に近くの岩に腰かけるように言い、近くから小枝を少しだけ集め、右手をかざす。
おお、すごい、火がついた!魔法だ!
魔法って便利!チャッカマンとかなくてもいいんだ!
…口に出したらため息をつかれそうなので、黙っていることにした。
それに、チャッカマンのこともきっと知ってるんだろうなぁ、と思うと、面倒で。
まず、お腹を満たしてから。それからだ。
カイは持っていたカバンからポットのようなものを取り出すと、何かの葉を入れて火の上に置く。
それからパンとハムとチーズのかたまり、のようなものを取り出す。
パンは天然酵母の少し硬めのパン風で、薄切りにしたそれをさっと火であぶると、今度は懐から取り出したナイフでハムを適当に切って載せる。
最後にチーズをとろけさせてハムの上に。
何そのおいしそうなものは!!!
「口に合うかはわからんが。」
そう言って渡してくれる。
「いただきます・・・」
いやあ、期待を裏切らない味!
ハムは(一応、何のお肉かあまり考えないことにしようと思っているが)、普通に食べやすい味。
塩気もちょうどいい。
チーズは場合によってはもっと香りが強いかと思っていたが、スモークチーズみたいにちょっといぶされた感じがする、おいしいものだった。
「おいしい!」
多分、ちびっこみたいな満面の笑顔だったんだと思う。
「そうか」
カイはちょっと苦笑、って感じで、カップにお茶を入れてくれる。
カップは軽くて、陶器っぽいけど割れそうにない感じ。
そしてお茶は、甘い香りの紅茶のようなものだった。
「このお茶もおいしいね。」
「それはエルシュという葉のお茶だ。」
「エルシュっていうんだー、へー。」
そういいつつカイも自分の分の分を作って食べている。
…食べるの早い…。
「もうひとつ食べるか?」
「いえ、もうお腹いっぱいです」
「そうか。」
そんなに大きくないし、お腹すいちゃうかも、と思っていたが、なかなかずしんとお腹に来た。
当分食べ物は要りません。。。
食べてる間に特に会話はない。黙々と食べ終わった。
「馬には乗れるか?」
「乗れます。」
「そうか。それならもう一頭連れてきたらよかったな。あいにく私の乗ってきた一頭だけなので、まぁ我慢してくれ。」
お昼(私にとっての)ご飯も済み、ようやくひとごこち着いた、ということで、移動開始。
馬が一頭、ということで、カイの前に乗って、馬に揺られている。
それにしても、カイは私の暮らす世界のことをよく知っているように思える。
どうして知っているんだろう?
そのくせ何も説明できないって、どういうことなんだろう?
「まぁ、いろいろ疑問に思っているだろうことは想像に難くない、が、もう少し我慢してくれ。」
森の中をゆっくりと進む。
少しずつ薄暗くなっており、さっきカイが「夜が近い」といっていたことを思い出す。
まずは、その「説明してくれる人」に会ってからだ、そう思っていると、ふいに目の前が開けた。
「見えたぞ、あの大きな建物が見えるか?あそこに向かう。」
目の前には大きな建物を中心として、放射上に広がる街がある。
「きれい・・・」
今にも落ちそうな夕焼けに照らされた街は、やけにきれいで、そして、なんだか懐かしい気がする。
どうしてカイと言い、この街と言い、こんなに懐かしいような気がするのだろう。
多分、この懐かしさが、緊張しつつ、不安になりつつもどこかでは安心している理由だろう。
…別にカイがカッコいいからついてきただけじゃないのよ、私。
第一章おわりです。




