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銀の鷹  作者: sanana
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扉-02

 何かを話していないと、不安でたまらないのだ。

この人は悪い人ではない、それどころかびっくりするくらい懐かしい気持ちがしている。

だからこそ、見ず知らずの人の馬に一緒に乗って、どこだか知らないところに向かっているのだ。

私にだって人並みに緊張感はあるのだ。

そもそも、いったいどうしてこんなことになったんだ、そう考えごとしたって

全くおかしくないはずだ。

それを、起きてるか、なんて、失礼な!


 ついさっきまで、私は図書館にいた。

近所の、小さい頃から通っている大好きな場所。

借りた本を持って、なんとなく二階の閲覧室で読もうと階段を上っていった私は、

ふと途中にある絵に目が行った。

それは森と湖の絵で、かなり大きなものだ。

私には絵のそういう知識はないので、何号、とかはわからないけれど、

よく見たいのであれば、くっ、と、見上げるような大きさ。

階段の部分は吹抜けになっており、踊り場になっているところに、それは飾られている。

きれいだな、と通りすがりには見ていても、いつも足を止めることなどないのに、

なぜ今日に限ってこんなに気になるのだろうか。

それはすぐにわかった。

湖のほとりに、灯りが一つ灯っていたのだ。

「なにこれ。ランタン?でも、どうして?」


 その灯りは、どうやらランタンのようだった。

誰かがそっと置いていったように。

しかも、その灯りは、ぼんやりと揺れていた。

まるで、本当の灯りのようにまさに今、その絵の中でゆらゆらと揺れているのだ。

この図書館に長年通い、何度も何度も二階へ上っている私だが、

今まで湖のほとりに灯りが灯っていたことなど、見たことは、ない。

例え通りすがりに見ていただけ、だとしても、今まで気がつかないわけはないくらい、

その灯りは目にとまる。

暖かく包まれるかのような。

暗闇を長く歩いてきた旅人を迎えて癒すかのような、そんな灯り。


 変化は突然だった。

ゆらゆら揺れている灯りから、何故か目が離せなくなった。

催眠術でろうそくの灯りを使うことがあるんだっけ?などと、くだらないことを思っていたら、

びっくりするくらい眠くなってきた。

ありえない、何なのだ、この感覚は。

こんなところで眠ったら危ないじゃない、踊り場だけど一応ここは階段だし、

そもそもこんなところで寝てたら次に上ってきた人がびっくりしちゃうわよ、とか、

一生懸命考えて眠気を払しょくしようとする。

それなのに全く眠気は消えない。

それどころか、どんどんひどくなるばかりだ。

とうとう眠さに耐えられなくなって、私は持っていた本を落とし、壁に向かって倒れこんだ。

正確にいえば、壁、というより、壁にかかった絵に倒れこんだ。

あーあ、本を落としちゃったよ、拾わなくちゃ、とぼんやり思った。


 そもそも普通ならば、ここで私は衝撃を受けて、目が覚めるはずだった。

壁に、いや絵に思いっきりぶつかったのだ。

おでこをさすりながら、必死で絵の心配をする。

高い絵だったらどうしよう、傷とか血とか汚れとかついていたらどうしよう。

しかも、結構広い踊り場とはいえ、一応階段だから、ちょっとよろめいて階段から落ちいてたら

危なかった、などとひやひやしながら、

そして恥ずかしさで辺りをきょろきょろ見回す、はずだった。

そう、はずだった。


 ところが実際は。私は絵の中に、すっと吸い込まれた、らしい。

痛みも質感も伴わなかったが、何故か自分がすんなり絵を、壁を通り抜けたことがわかった。

そして目の前に森と湖が広がったと思ったら、一瞬で石造りの広い広い建物の中にいた。


階段の踊り場、って、やっぱり誰か踊ってたのかなぁ?と思っていましたが、

階段の先で実際に踊っていたのが「踊り場」に通じた、というのと、

貴婦人のドレスがこの場所を歩くとき踊っているように見えた、

とか、説はあるけど未詳なんですねー。


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