そして大団円-02
カイが持ってきてくれたお茶を飲んだ後、エディさんとセレネのところにお見舞いに行った。
先に行ったエディさんはまだ眠っていたけれど、とても穏やかな顔をしていた。
お姉さまは、誰もが少しでいいから休んでください、と言っても全く聞かず、ずっと傍にいると言う。
しかも時々私とセレネの様子も見に来てくれていたらしい。
私が顔を出すと、「絹花!」と、泣き出してしまった。
「よかった!目を覚ました時そばにいなくてごめんなさい!」
私は安心してもらえるように、と、にっこり笑う。
「大丈夫、私にはリセさんもカイもついていてくれたし。
三人も倒れちゃったんだから仕方ないよ。
お兄様だってセレネに付いていてくれているんでしょう?」
「ええ、あなたとエディがしばらく休めば大丈夫だろう、ってわかった途端に、
セレネも緊張の糸が切れたみたいに倒れてしまって。
そのままハルが付いているけれど。
カイ、あちらの様子はどうだった?見てきたのでしょう?」
「ええ、陛下。
でも、しばらく前は、セレネもまだ眠っていました。
これから行ってみようと思いますが。」
「そうね、そうしてあげてちょうだい。
私は大丈夫なの。
エディが起きたときに、傍にいてあげたいしね。
それより絹花、本当にもう大丈夫なの?」
「私は元気になったし、本当に大丈夫!
セレネのことは心配しないで。
早く目が覚めて、いろいろ話してくれるようになるといいね、エディさん。」
「ええ、そうね。でも、きっとすぐだと思うわ。」
そして私達がセレネの部屋に行こうとしたとき、エディさんが目を覚ました。
「陛下…。」
「エディ!気が付いたのね!どこか苦しいところはない?」
「ええ、体は大丈夫です。
黒の風も…、どこかに行ってしまったようですし。
それより、陛下、お怪我はございませんか?他のみんなは?」
お姉さまの涙は一度おさまったけれど、また零れ落ちる。
「みんな大丈夫よ。
先ほどまで絹花も眠っていたけれど気が付いたし、セレネも今は眠っているだけ。
誰も傷ついてなどいないわ。」
「エディさん、私、元気ですよ。大丈夫です。」
私の名前が出たので、にっこり話しかけてみる。
「絹花。僕はあなたにもセレネにもひどいことを…。」
エディさんは苦しそうに言う。
「黒の風のせいですから、気にしないでください。
黒の風が乗り移ったのはたまたまで、エディさんじゃなくて、私だったかもしれないし、
カイだったかもしれない。
本当にただそれだけのことですよ。」
本当に、ただそれだけのこと。
心からそう思う。
「あなたは…。
いえ、よしましょう。
そう言ってくださるのですから、私もそう思うことにします。
でも、ありがとうございました。お礼くらいは言わせてくださいね。」
よかった。笑顔になってくれた。
「はい。じゃあ、私、セレネのところに行ってきますから、お姉さま、また後で。」
エディさんが目を覚ましてから、ずっとエディさんを見て泣いているお姉さまの邪魔をできるだけしないように、私は部屋からそそくさと出た。
「あー、ねぇ、カイ、お姉さまって。」
「あー、昔から扱いが違ったんだよなー、エディだけは。
実の弟より優しくしているって、ハルもよく言ってたけど。」
やっぱりそうか。
「まぁ、エディも陛下のこと、昔から好きだからさ。
俺たちはみんな、陛下のことを助けたい、って思ってて、
俺なんかは自分にいないから姉さんの代わりみたいなもんだけど、
エディにとっては、運命の人だったようだから。」
それはそれは、また、オオゴトな。
「運命の人、ですか。」
「あいつ、本当に神官やってるのも陛下のためだからな。
エディと俺とでどっちが賢者になるか話したときに、なんて言ったと思う?
『賢者は、大賢者でなければ陛下の傍にはいられない。
でも、神官だったら、大神官でなくても、いろいろな神事には陛下がいらっしゃるわけだから、
たとえ守護精霊が違っても、会える可能性が多い方にかける!』だってさ。
まぁ、俺としてはどっちでもよかったから、素直に賢者になったわけだけど。」
なるほど…。
エディさんって、見かけによらないと言うか…。
「今度のことがきっかけで、陛下も考えてくれるといいんだけどな、結婚のこと。
絹花にも会えたことだし、一つ区切りも付いただろうし。」
「そうね。ありきたりだけど、幸せになって欲しいな。
私のお姉さまだもの。」
そう、会ってまだほんの数日だけど、大切な私のお姉さまだから。
セレネの部屋に行ったら、なんとちょうど目を覚ましたところだったらしい。
今度はハルお兄様が大感激で、
「いやー、よかったー。ほんとによかったよー。心配したよー。」と言いながら、
セレネのことを抱きしめていた。
セレネはというと、びっくりして目を白黒させていた、という感じだった。
「…カイ、ハルお兄様って、こんな人だっけ?」
「そう、多分俺たちの中で一番かわいいんだよ、こいつ。
リセよりも陛下よりも、な。
すぐ感激するし、天然で褒めちぎるし、きれいなものに弱いし、怖がりだし、
優しすぎるくらい優しいし。
そのくせ騎士団一剣が強いんだから、詐欺だよなぁ。」
カイが少しばかりため息をつきながら教えてくれる。
「なるほど…。男前なお姉さまと、かわいいお兄様か…。
なんかさすがあの両親の子供って感じだわ。」
「お前も負けていないと思うけどな、この姉弟に。」
「え?」
こんなに普通なのに、どこがだろう?
そう思いつつ、心配性のカイによって、私は再びベッドに追いやられたのだった。




