そして大団円-01
最終章です!
エディさんが気を失うのと同時に、私も気を失ったらしい。
気が付いたら、ふっかふかのベッドの上にいた。
何でこんなことになっているのか、一瞬わからなかった。
ふと隣を見ると、椅子の上でカイが居眠りをしている。
「今何時なのかしら?」
外はうっすら明るくなってきた気がする。
昨日倒れたのが夕方近くだったとしても、私は十二時間近く寝ていたことになるのだけど…。
「それにしても、カイ、器用だなぁ。」
一人用の木の椅子の背にもたれながら、腕を組んで寝ている。
まるで試験監督の先生が、うっかりうたた寝をしているようだ。
カイだってあの時すごく魔力を使っていたのではないかしら。
だとすると、すごく疲れていてもおかしくない。
「こんなところにいないで、ちゃんと眠った方がいいのに…。」
もちろんいてくれたのは本当にうれしかった。
だけど、逆に心配になってしまう。
「ん…。」
私がごそごそと動いたせいか、カイが気づいて目を覚ました。
「おはよう、カイ。
そんな木の椅子に寝ていて、体痛くないの?」
「ああ、おはよう。
椅子で寝るのは慣れてるから大丈夫、よく賢者の塔でこもっている時、このまま寝てるから。
…って、お前、大丈夫なのか?どこか痛い所とかないか?」
初めはどうやら少しだけ寝ぼけていたらしい。
普通に私の質問に答えてくれるから面白かった。
そうか、よく徹夜してるんだ。
大賢者って大変なのかしら。
「大丈夫、だと思う。別に痛いところもないし。
…私、そんなに眠っていたのね?」
「ああ、もう朝だな。
エディが倒れたのと同じくらいにお前も倒れて、それからここに運んで特に外傷もないし、
力を使いすぎて疲れたんじゃないか、ってことで様子を見ることになったんだよ。
途中までリセも付き添っていたんだけど、あいつも昨日は吹っ飛ばされたりなんだりしているから。
リナス殿が心配して無理やり連れて帰った。」
リセさんがいてくれたんだ。
彼女も何度もあの突風に巻き込まれていた。
大丈夫だっただろうか。
「やだ、ねぇ、エディさんは?セレネは?」
あの二人はどうしただろうか。
焦って尋ねると、カイは面白そうに見つめ返した。
「お前、自分の心配をもう少しした方がいいように思うけどな。
エディはまだ眠っていると思う。
黒の風の力もあっただろうけど、あいつの力もかなり使われている。
でも、多分しばらく休養すれば大丈夫なんじゃないかと思う。
セレネも疲れたんだろう。
お前がここに連れてこられて、特に心配なさそうだってわかった瞬間、眠ってしまった。」
「そうよね、セレネ、少し前にこの世界に順応した、と思ったら、
いきなり巻き込まれて疲れちゃうわよね。」
「さすがに三人倒れるとなかなか大変だぞ。
エディには陛下が心配して付き添っているし、セレネのことはハルが見ているから大丈夫だろう。」
そうか、お姉さまとお兄様が。私も様子を見に行きたいなぁ。
「お前はまだダメだ。そのままもうしばらく寝ていろ。」
「え、まだ何も言ってないじゃない。」
なんでわかったんだろう、声に出してないのに。
「でもっ。もう大丈夫だし、みんなが心配だし。」
カイは私を見て、大きなため息をついた。
「あのなぁ、これでもかなり心配したんだよ、俺は。
お前がもう起きなかったらどうしよう、とか、
最後に黒の風がお前になにかしていったんじゃないか、とか。
だから、そんなかわいそうな俺のために、もう少しでいいからゆっくりしてくれないかな。
ひとまず他のやつらにお前が起きたことを伝えて、お茶の手配をしてくる。
お茶を飲んだら、エディとセレネの見舞いに行こう。
伝えるついでに二人の様子も見てくるから。」
そう言われたら、私のはただのわがままのように思えてきた。
「はい、じゃあ、もう少しだけおとなしくしてる。」
「そうしてくれ。じゃ、俺はちょっと様子を見てくるから。」
片手を挙げて、カイは出て行った。
扉がしっかり閉まって、足音が遠ざかっていくのを確認して…。
私は布団を目の下まで引き上げてもぐりこんだ。
「あー、思い出しちゃった!カイがあんなことを言うから!」
『最後に黒の風がお前に何かしていったんじゃないかとか。』
心の中に、例えば私の心の暗黒に、黒の風が何かを残していったとは思わない。
あの時不適に笑ったあの黒の風は。
だけど。
「くそー、私のキスは高いぞーっ。
なんでキスなんてしていくのよっ!」
そう、最後の最後にキスしていっただけだ、アレは。
しかもエディさんの体をのっとって!
エディさんとキスしたんじゃない!と思っていないと、次にエディさんと会ったときに
すごく気まずいので、一生懸命アレは黒の風だ、と自分に言い聞かせる。
本当に世界征服したかった悪者なのか?本当に?
もちろん悪だけの存在なんて信じない。
そう言った気持ちに偽りはない。
次に目の前に現われたって、絶対に同じことを言ってやる!
でも!
「何考えてるんだ、あの悪者は!次に会ったら絶対許さないんだから!」
そうしてカイがお茶を持ってきてくれるまでの間、
私は自分の心に中に、せっせと暗黒を、黒の風に対する憎しみ?を溜め込んだのだった。
いけない、いけない。
でも、同情の余地がないんだよなぁ、本当に消えたのだろうか。
次に会うときは、ちょっと腹黒いくらいの普通の存在になってるといいんだけど。
仮にも伝説にもなっている『絶対の悪の存在』相手に、そんなことを考えていた私だった。
あーあ。




