黒の風-4
「それは無理な話だな。」
突然私とセレネの会話に声を挟んだ人がいる。
「エディさん?」
エディさんだけど、エディさんじゃない話し方に不審な気持ちで振り返る。
「銀の鷹よ。待ちわびたぞ。
この世界に再びお前が現われるのを千年。
前回はあの男のせいでまんまとお前を手放してしまったが、今回はそうはいかない。」
エディさんが顔を上げた。
瞳は濃い緑色だ。
でも、エディさんの瞳はもっと淡い緑のはず。
「エディ、お前どうしたんだよ?
・・・いや、違うな、お前は誰だ?
エディはどこだ?」
カイがセレネと私を背中にかばいつつ、エディさんと距離を取る。
そして驚いたようにつぶやく。
そう、この人はエディさんだけど、エディさんじゃない。
「ああ、時渡り、何か変な動きをしてみろ、この男は死ぬぞ。
この男が死んだところで、私がいなくなるわけではないからな。」
叔父さんが少し離れたところからエディさんに近づこうとしていたのを制して、
逆にこちらには少しずつ近づきながら、楽しそうな微笑みを浮かべる人。
表情もちがう。
「私は黒の風と呼ばれるもの。
銀の鷹、私と一緒に来てもらおう。
そうだな、まずはこの国の女王でも滅ぼしておこうか。
あれは自分が思っている以上に面倒な存在だからな。
消してしまうに限る。」
これが、黒の風。。。
「黒の風と言ったわね、あなた何を言ってるの?」
「王家の三番目の娘よ、お前が現れるのを千年待っていた。
役柄とはいえお前のお手柄だな。
今回も無事に銀の鷹を見つけてくれたことには感謝しよう。
そうだな、 エディ、とか言ったか、この男もついでにもらっていくぞ。
ちょうどよい私の器となろう。」
何を言ってるの!?器って、黒の風には実体がないの?
しかも…
「なぜエディさんに!!」
その問いかけに黒の風はにっこり笑って答える。
「誰の心にも暗闇はあるだろう?
この男の心の多くに、女王を守ろうと思うのに、どうしたら役に立つのか、
それを必死で考えてはうつむいている部分がある。
誰かの役に立ちたいと思うことと自分の力不足と感じること。
その隙間にできた暗黒は心地よい。
相手が女王なだけに尚更な。
一番守りたいと思っている者の手で、女王を殺してやるのもよい余興だろう。」
「きゃっ、何?!」
黒の風が言い終わった瞬間に、強い風が吹いた。
前が見えない。自分を飛ばされないようにするのが精いっぱい。
その黒い風は、セレネを、エディさんを連れて、姿を消した。
「くそっ、あいつらどこに消えたんだ!気配が辿れない!」
「あの言い方だとレティが危ない!
おいカイ、絹花、早く城に戻るぞ!」
私は二人が消えた場所をぼんやりと見つめる。
叔父さんとカイが話しているのが聞こえるような気がするが、とても遠い音だ。
黒の風、と名乗る存在は、エディさんの心の隙間にとりついた。
それは一番お姉さまを守りたいと思っているから?
しかも、そんな風に思っている人の手で、お姉さまを殺す、ですって?
「そんなこと、させない。」
「絹花?」
「絶対に許さない。」
心が熱くなるのがわかる。
目の奥が怒りでチカチカする。
そして私の中から、何かがあふれた。
「お姉さまを守らなくては!カイ、叔父さん、行くわよ!」
「わ、ちょっとまて、おい、絹花っ!」
今なら行ける気がするから。
「城へ!」
お願いだからお姉さまの元へ行かせて!
一瞬目の前が真っ白になったと思ったら、次に目を開いたときには、城の女王の間にいた。
…そこには、ハルお兄様とリセさんが背中にお姉さまを守り、
その前にセレネを連れたエディさんが立っていた。
絹花、跳んでみました(笑)




