扉-01
2012年10月6日少しだけ加筆しました。
大勢に影響はないと思われますです、ハイ。
「ずいぶんおとなしいようだが、起きてるのか?落ちるなよ?」
後ろから声がする。しかもすぐ後ろである。
乗馬を習っているので馬に乗る機会はあるが、あまり人と一緒に乗る機会は
ないような気がする。
いや、気がする、じゃなくて、基本ないな。
しかも前に乗せられるって、どこのお姫様だ…。
パンツだからよかったものの、これでスカートだったら確実に横座りだ。
こっぱずかしくて顔をあげられないところだった、よかった。
「おかげさまでなんとか。ところであとどのくらいで着くのかしら?」
「そうだな、あと三十分、というところかな。」
見慣れない景色を見るとはなしに眺めながらぼんやり考え事をしていたせいか、
どのくらい揺られているのかわからなくなった。
「時間の考え方は一緒なの?」
「時間、分、秒、日、月。年の考え方は一緒だな。うるう年もあるぞ。
ただし、一月が二十九日になる。二月はもともと三十一日まである。」
私の後ろできれいな葦毛の馬の手綱をさばく男は、そう答える。
今、なんということもなく、さらっと言ったな?
いじわるかな、と思いつつ言ってみる。
「へぇ・・・、なるほどね。
ところで、私は今、『一緒なの?』と聞いたわけで、そこまで語れると言うことは、
私の来たところがどういうところなのかもすごく知っているってことよね。どうして?」
「…」
あ、沈黙した。
ざまみろー。つらっとしてるから、逆襲だ!
「・・・、それは私が答えることではない。」
「さっきからそればっかりだなぁ。」
「だから、ちゃんと説明ができる人のところへ連れて行ってやると言っているだろうが。
俺にはそんな権限がないんだ。」
本当にさっきからそればっかりだ。どんな権限がいるんだ、ただの世間話に。
「権限がない割に、いろいろ答えちゃってる気がするけど、いいの?」
時間のこと以外にも、さっきから私の誘導尋問に引っかかってる。
…ひょっとしてこの人なりに緊張してるのかしら?
全くそんな風に見えないけど!
「もうお前、話すな、黙っていろ。」
あ、ひどいな、それ。ただのささやかな疑問じゃないの!
「何よ、それ。自分がさっきからぺらぺらしゃべってるのが悪いんでしょう?」
「お前なぁ、突然見たこともない世界に落ちてきて、知らない人のところに
連れて行かれているって言うのに、もうちょっと緊張したらどうなんだ?」
ものすごい大きな溜息をつかれて、またちょっとムッとする。
溜息をつきたいのは、こっちのほうだ。
「知らないわよ、そんなの。」
十二分に緊張してるわよ、私。
そんなにわからないかなぁ。
しかも、最初は丁寧語だったのに、どんどん口調が適当になってるわ、あはは。
緊張してる、不安なせい、ってことにしておこう。
うん、そうだ、絶対にそうだ!
切れ目が難しいな。。。




