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銀の鷹  作者: sanana
18/29

黒の風ー1

すみません、ご無沙汰しました。

「時の間ってこんなところだったっけ?」


リナス叔父さんに連れてこられた時の間は、私のいた世界とここをつなぐ場所。

まさしく私が図書館の絵に倒れこんだ、やばい!と思った瞬間に、来たはずの場所。

この世界で始めて見た所のはずだ。

それなのに、もう覚えていない。

あー、石造りで家具とか全然なかったなー、ってことくらいかしら。


…まずい、まだ一週間もたってないのに覚えてないって、大丈夫?

そもそも人類としてやばい気分になってきた。

…まぁ、一応動揺していたってことにしよう、うん。


「こんなところのはずですけどね。カイがお前さんを迎えるついでに飾りとかしてなければな。」

…叔父さん、それはないわー。


「何にも飾ってなかったよ。お誕生日会とかお楽しみ会じゃないんだから!」

「いやいやカイだからな。何やってもおかしくないと思うぞ。」

「それ、どういう意味?何やらかしてるの、あの人。」

「聞きたいかー?でもなー、ただじゃー教えてられねーなー。」

「何よそれ。今度あっちで会った時、もう福多屋の豆大福、買ってきてあげないから!」

「それは困る!福多屋の豆大福、今のところ一番なんだ!」


叔父と姪がのんきに話しているかのように見えるが、実は!

…本当にのんきに話しているだけだ。


今日は叔父さんが時の間を案内してくれる日。

昨日、私が見続けていたのが銀の鷹では、ということが判明した翌日!


「なんだか気が抜けるよなー。なんで俺が案内する日にこんなことになっちゃったのかなー。」

「叔父さん、情けないことうだうだ言ってないで、時渡りのことを話してよ。」


きっと会える!と信じた私が、それでもどうしたものかと一応一晩考え続けて、

明け方に少しだけ眠りかけた瞬間に思いついた、銀の鷹を見つける最高の方法は!!

『いつもどおりにすること!』だったのだ。結局。

ちょっと情けないが。


毎日カイに、エディさんに、ハル兄様に、リセさんに、

やってもらったことと言えば、普通にそこを案内してもらうこと、話をしてもらうことだけだ。

ということは、今日だって、もともと案内してもらうはずだった時の間に行って、

時渡りの話をまずは聞こうというわけだ。


…うん、そもそも「ちゃんと今日も銀の鷹に会える!」と思っているところから、

すでに根拠のない自信と言われてるんだけどね…。

しかも、「いつも通りに!」なんて言ったもんだから、叔父さん嫌がったのなんのって。

みんなで説得して、リセさんに脅しつけられて、ようやくここにやってきたようなもんだ。


叔父さんとリセさん、喧嘩友達らしいよ?

よくお姉さまのこととかで喧嘩しているらしい。

もう、『喧嘩するほど仲がいい』を地で行ってるらしくて、

誰も二人の話に口出ししないんだって。

ある意味お似合いよね。


とはいえ一応何かあったときのため、少し離れたこの広間の入り口にはカイとエディさんがいる。

さっきの話が聞こえていやしないかと、内心ハラハラしているのだが、叔父さんはマイペースだ。


そして、影響はないと思うけど、念のためお姉さまの傍にはハル兄様とリセさんがいる。

もし銀の鷹に無事会えたら、すぐに会いたいから好都合、ってハル兄様は言っていたけど。

念には念を、入れておいたほうがいい、お姉さまについては。


ということでいつも通りに過ごそう、と、時の間について、だらだらと叔父さんと話している、ことになる。

おかしいな、他の時はなんかこうもっといろいろあったりしたけど。

なんで叔父さんの時は、こういつも通り過ぎるくらいいつも通りに話してるだけなんだ?

基本人がいないからかな。

今日は別の世界とつながる、いわゆる「時の扉が開く」日ではないから、誰も用事がない。

1週間に一回って言ってたものね。


「時渡りはー、まぁ、その時代に一人、ってことになってるからー。

 先代が亡くなると、自然にその力が次代に受け継がれるわけ。

 俺が時渡りになったのは、えーと、十五歳のときかな。

 その年に兄さんは向こうの世界に行ったわけだから。」


叔父さんがめんどくさそうに、まぁ説明しとくか、という雰囲気で話し始めた。

すごく面倒そうだけど、今さらっとすごいこと言わなかった?


「力が受け継がれるって、どうやって?」

なんだそれは。聞いたことないわよ?


「いやー、俺も寝てたからよくわかんないんだけど、なんか多分力が跳んできたんだよねー。

 夢の中で光が爆発して、驚いて飛び起きたら、すごい違和感なんだよ。

 その違和感の正体をよく考えたら、ようやくわかった。

 向こうの世界で暮らしている、こちらから行ったたくさんの人の顔や名前、居場所を

 何故か知っていたんだ。

 まぁ、全員じゃないみたいだけどね。」


「叔父さん、それで知り合いが多かったの?」

なるほど。

叔父は私の家に滞在中も何週間か留守にしてまた帰ってくる、という時期があった。

その間、いろんな人のところに行っていたのだろうか。


「うん、だから、絹花の家には一ヶ月くらいしかいなかったけど、大体三ヶ月くらいは

 世界のあちこちにいる、この世界出身の人たちに会いに行っていたんだ。

 何でだかお金持ちが多くてね、飛行機代とか出してくれるし。」


おいおい。

「叔父さん、なんかここで言うのもなんだけど、貧乏くさいわ、元王子の癖に。」

そうよ!お姉さまは女王様らしいけど、よく考えたら叔父さんだって元王子様よ!

やればできる!


キッ!と見つめると、叔父さんは困ったように頭をかきながら言う。

「だって王家ったって、俺は王様じゃないしさ。

 今だって姪が女王だってだけで、俺はただの時渡りだよ。

 …まぁ、絹花の家も王様の家の割に全然贅沢と縁のない家だったよな。」


…そう、今にして思うと、あそこは王様と王妃様の家だったわけだ。

恐ろしいことだ。


「そうよ、父さんも母さんもある日『倹約』っていうのが趣味になっちゃって。

 どれだけお金を使わないで楽しく暮らせるかに工夫を凝らしていたもの。

 別に貧乏だったわけじゃないし、必要なものは普通に買ってくれたけどね。」


王様、よほど贅沢じゃない暮らしが斬新だったんだろうか。

王妃様もノリがいいからなー。

と、自分の親ながらちょっと離れた目で見ると、ちょっと微妙な人たちだよね、やっぱり。


「そうだったなー。一度晩飯がその辺で摘んできた草だらけのことがあったっけな。」

あ、叔父さん、遠い目だ。

覚えていましたか。


「ああ、タンポポの葉とかね。凝ってたのよ、一時、父さんが。

 草はイヤと言うほど食べたから、近所の食べられる草には相当詳しいもの、私。」

未だにお金が足りなくなったら当分野草で暮らしていける自信はありますよ。

そういう自信でよかったらバッチリだ!


「あ、そういえば、ずっと不思議に思っていたんだけどさ。

 叔父さんっていまいくつ?年とらないよねー。」

これを機に聞いてみよう。


「今年三十五だけどな。でも、多分体はまだ二十九くらいなんじゃないかな。」

また変なこと言い出したぞ??

「何、それは?」


「ああ、時渡りってのはな、何度でも時を渡れる、つまり向こうの世界にいけるんだが、

 向こうの世界に行ってる間は年をとらないんだよ。

 俺の時間は流れないんだ。」


???

「どういうこと?」


「俺が向こうに行った段階で、俺の時間は止まる。

 そしてこちらに戻ってきたら、そこから俺の時間がスタートする。

 向こうの世界でちゃんと心臓も動いているけど、爪も髪も伸びないし、怪我も治らない。

 逆に怪我もしないけど。」


「うそ。」


「そんなことで嘘ついでどうする?

 時渡りになって二十年、平均で四ヶ月くらい毎年向こうの世界にいるからな。

 だいたい7年弱くらいの時間が流れていないはずなんだよ。

 そのうちレティより年下になるかもな。

 だから、時渡りと結婚してくれる人は珍しいんだぞ。

 何せ時間は等しく過ぎていってくれないからな。」


「…叔父さんはそのせいで振られたの?」


「いや、そんなさびしい男に見えるか?」


「まぁ、ちょっとは。」

え、と、す、すみません。あまりにそういう雰囲気がないもんで。

いつも父さんと母さんが心配そうにしていたけど、飄々と笑い飛ばす。

それが叔父さんだったからなぁ…。


もてないように見えていたわけではありませんよ!

近所のおばちゃんがたから、商店街のおねーさん方に至るまで、

かなりあからさまに狙ってましたからね、叔父さんのこと!


「…ま、いいけどな。

 えーと、婚約者はいて、愛していたんだけどな、病気で死んだんだよ。

 俺がいない間に、あっという間に。葬式にも出てやれなかった。

 俺が戻ったのは、死んでから二ヶ月も後のことだった。

 タイミングが悪くてうまく連絡を受け取れなくてなー。」


「叔父さん…。」

うわー、そんなシリアスなお話だったとは!

ごめん!叔父さん!


「そんな顔するな。」

叔父さんは苦笑、という感じの表情を浮かべたまま、私の頭をくしゃくしゃ撫でる。

ごめん、叔父さん。泣かないから。


「だからな、絹花。

 いつかお前が絶対に好きだと思ったヤツは、迷わず離すなよ。

 できるだけ後悔しないようにしろ。

 後悔なんてものはな、しないでいようと思ったって、来るときは来るんだ。

 できるだけ後悔しない道を選べ。

 振られたらそいつの幸せを祈ればいいだけだからな。」


「うん、わかった。」


時渡りの、叔父さんの孤独を、初めて垣間見たような気がした。

時渡りは、血筋ではなく一種の素質で継承されます。

それは先代がなくなって初めてわかるものであり、

今回はたまたま王弟がなった、というだけの話。

でも、一人しかいないので、叔父さんは王弟というより時渡りとして生きることになりました。

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