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銀の鷹  作者: sanana
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銀の鷹―04

「あら、もう?」

私の反省しきりの報告を聞いて、姉上が発した第一声はそれだった。

小学校の時、塾の扇風機壊して以来のドキドキっぷりで来たって言うのに!

ほんとに職員室に呼び出された子供の気分だったのに!

何と言って怒られるのか、怒られないまでも呆れられるだろう、と思っていたら

そんな反応で、私は逆に固まってしまった。


「あらもう、って、だって、私、ずっと見逃していたんですよ?

 いつ見つかるかだってわからないんだから、もっと注意しておくべきだったのに!」

ほとんど悲鳴である。


そんな私を小首を傾げて見ながら姉上は言う。

「まぁ、別にあなたを責めたところで仕方ないしねぇ。

 これは怒ったり呆れたりするようなことでもないでしょう?

 伝説かと思っていたようなことが、どうやら本当らしいね、っていうだけだもの。

 伝説にすぐ気づかないからって、そんなことで怒らないわよ、私。

 そもそも私自身が見たこともないんだもの。

 どんな感じなのか、わからないしねぇ。」


でも、もう少し注意深くてもいいわね、あなた、と、軽くため息をついて、姉上は私を見た。


ううううう。

いっそ怒ってくれた方が気が楽、な気分にさえなる。

だって、大失態だよ、これ、多分。


とそこまで考えて、はた、と気づく。

…怒ってもらえるって思うことの方が甘えている証拠だ。

その方が、ごめんなさいって謝れば、自分の気持ちが軽くなるから。

だけど今は、私にだけしか見えないんだから、この先銀の鷹をどうやって見つけるのかを

考える方がよっぽど大切だ。

自分がした失敗は自分にしか挽回できないんだから。


にこにこ笑っているお姉さまの前で、ぐるぐるしていると足音が聞こえてきた。


「陛下!」

バン、と、扉の開く音がして、リナス叔父さん、ハルお兄様、カイ、エディさん、リセさんが入ってきた。

リセさんがみんなを呼んでくれたのだろう。


「絹花、この注意力散漫!今度見失ったら承知しないからな!」

リナス叔父さんが代表してちょっと怒ってくれた。

ハルお兄様、エディさん、リセさんはにっこり笑ってくれた。

カイは頭をポンポンとなでてくれた。

…ちょっとうれしかった。


まず落ち着こう、ということになり、みんなでお茶を手元に話しはじめる。

「まず、言葉が通じるのかもわからないだろう?

 どうやって引き止めればいいんだろうな?」

カイが口火を切った。


明日、私が銀の鷹に会ったとき、具体的にどうするか、ということを話し合っている私たちだが、そもそも意志の疎通と言う時点で難航している。


「今まで光だったのが、ようやく今日人間に見えた、ってことは、

 少しずつ人間に近くなっているんじゃないのかな?

 だとすれば、明日か明後日くらいには、人間の言葉もわかるようになったりしないかな?」


「ハル、それはあまりにも楽観的な考えすぎるだろう。

 いくらなんでも。」


「だけどカイ、ハルの言うことも一理あると、僕は思うよ。

 銀の鷹が人の姿を取り出したのは、少なからず絹花の影響があると見て

 間違いないだろうからね。」


「だがエディ、明日絹花はリナス様と一緒に時の間に向かうことになっているが、

 そこで必ず会えるのだろうか?」


「それは僕にもわからないけれど…。」


「あー、何で明日俺の番なんだろうな。

 時の間なんて何もないし、明日はやめた方がいいんじゃないか?」


「まぁ、おじ様!なんてことおっしゃるの?」


みんなそれぞれ悩んでくれている。

ありがたいなぁ。

でも、いい年した大人が七人、膝を突き合わせて考え込んでいると言うのも何だなぁ、

しかも、こんなに顔がきらびやかな六人がそろってるってナニゴト?

と、どうでもいいことをぼんやり思ってしまった私は、

実のところだんだん能天気な考えになってきていた。


「あの、多分、多分ですけど。

 私、明日ちゃんと銀の鷹に会えると思うんです。

 そしたら、話しかけてみます。」


全員が私を見る。

ちょっと怖いです、その目(笑)


「絹花…。その根拠のない自信はなんだ?」

叔父さんがため息まじりで言う。

ごめんね、明日叔父さんの番で。

ご面倒をおかけしそうですが。


「うん、みんなそう思うよね。

 実は私にもよくわからないんだけど。」


と、これだけで終わると、みんなため息しかつけないよね。

本音なんだけど。


「でも、私だけが銀の鷹を見られるのであれば、

 今の段階では私が見なければ銀の鷹は存在しないわけで。

 そして、悪い存在が利用しようと思って利用できるってことは、

 私なしでも他の人にわかるように存在できるってことだし、

 それには何かの形になるのが手っ取り早いでしょう?

 今日、人の形を取ったって言うことは、だよ。

 きっと明日も人の形をとって私の前に現われて、

 私とお話してくれるんじゃないかと思うの。」


そうでなれば、私だけが見つけられる意味がない。

とはいえ、かなりの詭弁だけど。


一瞬シーンとしてしまう。

それぞれが何か考え込むような雰囲気。


「そう言われるとちょっと納得してしまうわね。」

お姉さまは真剣な表情で私を見つめて言った。

でも、すぐににっこり笑ってくれる。

「いずれにしろ絹花にしか見えないのよ、今は。

 私は絹花を信じるわ。

 明日は好きにしてみなさい。」


お姉さま!

「はいっ。」


「結局姉上は絹花に弱いんだな。俺にはそんなに優しくないのにな。」

その様子を見てお兄様がそっとつぶやくと、リナス叔父さんがお兄様の頭を撫でながら答える。

「いや、レティは十分ハルには優しいと思うけどな。

 俺はもっと優しくしてもらってもいいはずだが。」


そこ、何二人でいじけてるのー?


「あら、失礼ね。

 私は誰にでも優しいでしょう?

 同時に誰にでも厳しいけれど、ね。

 ハルもいい加減子供じゃないんだから、

 叔父様に頭を撫でられて慰められてる場合じゃないのよ。

 叔父様も叔父様ですわ。

 全く、本当にみんな子供で困るわねー。」


お姉さまが笑って言うと、皆も笑う。

皆、陛下の弟みたいなものですからね、と、カイが言うと、

私は妹だ!と、リセさんが言う。

そんな二人をエディさんがまぁまぁ、と押さえながら、

陛下の前では、皆が陛下のものなんですよ、なんて言ったりする。


そんな他愛もない会話がずっと続いていく。


…なんだかよくわからないけれど、泣きそうになった。


皆、明日のことが気になって仕方がないのだろうに、

私のことを信じてくれようとしている。

会って間もない私なのに。

本当に私がちゃんと見つけて話ができるかどうかもわからないのに。


でも、また泣いたら皆が心配するから、

少し心配そうに私を見るカイににっこり笑って、

私も他愛もない会話に、甘えて参戦することにしよう。


心の中で、そっと祈りながら。


もし、誰か、この心の声が聞こえるならば。


どうぞ、この愛する人たちが、幸せでありますように。


世界の人々皆が、愛する人を心から愛し、愛され、

皆に愛があふれる世の中でありますように。


優しくてやわらかくて、でも時々ちゃんと厳しい、お姉さまのような、愛が。


この祈りがどんなに稚拙で子供だましかなんてわかっている。

でも、わかっていても、祈らずにはいられないこともあるから。


どうか、私ができることならなんでもするから。

銀の鷹も、この世界ももう一つの世界も、悪の存在ですら、

全てに愛があふれますように…。


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