銀の鷹―01
お姉さまによる「この辺を知ってもらおう」ツアー開催中!(笑)
カイと一緒に塔を周った翌日も、笑顔でお姉さまに「観光ツアー」に
送り出されることになった。
観光、と言ってもお城の周りの建物ですけどね。
今日は、エディさんに風の神殿を案内してもらうことになっていた。
エディさんは風の神殿の大神官の一人なのだそうだ。
大神官も大賢者と同じく六人いるという。
一つの神殿には大神官とその中の長として神官長がいる。
神官長はその神殿に属する神官をまとめ、大神官のうちの一人は女王を補佐する。
エディさんは大神官の中でも、その女王を補佐する一人になっている。
ちなみに、私がここに来た日に会ったカイ、リセさん、エディさん、お兄様、叔父さんは、
その「女王補佐」だったらしい。
エディさんもカイと同じく、十七歳で賢者としての力を認められたのに、
そのまま風の神殿に留まり、二十歳で大神官になった。
『偶然なのですけどね。』と穏やかに笑って答えられたけど、
偶然なんてことないんだろう。
実力がなければ、見せかけだけでは尊敬されない。
昨日の塔も、この神殿も、実力主義な雰囲気でいっぱいだった。
しかも神殿ですれ違う人たち皆の名前を呼んで声をかけているエディさんは、
本当に若いけど「デキル上司」って感じだった。
もう、若くして課長とかになっちゃって、部下の女子たちの憧れの存在的な。
って、会社勤めしたことないから、想像だけどね。
そういえばカイもできる上司風だったなぁ。
あの人は、塔で出会う人の前と、私とかヨール様、お姉さまや女王補佐たちの前では、
あまりにも態度が違いすぎだけど。
結局昨日もらったペンダントは、お姉さまとリセさんとも相談して、身に着けていてもいい、
ということになった。
なので今日は昨日と同じ小僧スタイルに、ペンダント付き。
あ、そういえば、この石は風の加護って…。
「そういえば、私、昨日大賢者のヨール様に風の加護を受けるもの、って
言われたんですけど、それってどういう意味なんですか?」
私の素朴な質問に、笑顔でエディさんが教えてくれる。
「この世界では生まれた日によって、六つの精霊いずれかの加護を受けます。
神官はそれぞれの加護を受けた神殿に入ります。
私も風の加護を受けるものですから、風の神殿にいるのですよ。
カイには樹の加護がありますから、もともとは樹の神殿にいたのです。
リセは太陽の神殿の舞姫です。
ちなみに女王陛下は水の加護を受けているので、今執務を執っていらっしゃるのは
水の間です。
それぞれに王城にはあった執務室が用意されています。」
へー。
「私はそれでいうと、風の加護を受ける日に生まれた、って言うことなんですか?」
ふむ…と呟きながら、エディさんは私をじっと見る。
「そうですね…。
通常は生まれた日で判断できるのですが、あなたはあちらでお生まれですから。
でも、お見受けしたところあなたの中では一番風の力が強いようですから、
そういうことになるでしょうね。
とはいえ、おととい会ったときから全ての力はお持ちのようでしたが、
その時より全ての力が強くなったようですね。
昨日、賢者の塔で何かありましたか?」
あははー、エディさんって、そんなことまでわかっちゃうんですかー。
「あ、えーとですね。」
なんと言ったらいいかわからず考えていると、エディさんはにっこり笑う。
ほんとに皆私の顔をみてにっこり笑うけど、中でもエディさんのにっこりは
本当に和むなぁ。
「まぁ、今おっしゃらなくても構いませんよ。
いずれにしろあなたにも、賢者の資格はある、ということですね。」
あははー、そうなんですよー。
賢者の資格、昨日急に持たされちゃって。
今のところ宝の持ち腐れってやつですー。
って、何か畏れ多いけど残念すぎて言えない、言えないわ。。。
さ、話題変えよっと。
「エディさんにもあるんですよね、賢者の資格。」
そうそう、こっちよ、こっち。
エディさんも賢者の資格あるのに、なんで神官なんだろう。
疑問だったのよねー。
「ええ、でも、カイの方が賢者に向いていそうでしたしね。
私はのんびり神官をやっていた方が性にあうようでしたので、そのままここに。
二人も賢者は要りませんしね。」
「え?」
どういう意味?
だって、あんなにいっぱい賢者の人いたけど。
二人って?
ああ、と、少しだけいいよどんで、エディさんは続けてくれた。
「小さい頃から、私たちは女王陛下と三つしか離れていませんでしたからね。
私たち全員にとって、優しいお姉さんだったのですよ、陛下は。
それが女王になられて、カイとハルとリセと私はいろいろと考えた結果、
四人で約束したのです。
将来必ず女王陛下をお助けしよう、って。
女王陛下の補佐役は、大賢者、大神官、騎士団長、舞姫の長、時渡りの五人です。
時渡りはすでにリナス様でしたから、後それぞれに私たちがなればいいんだ、と、
簡単に思い込みましてね。」
お姉さまのために、何だ。
それって、でも、すごいことなんじゃ。
現実に今はそうなっているけれど。
「運とかいろんな力も働いて、それぞれ皆が将来は補佐として
お役に立てる状況になりましたが。
もちろん補佐役を務めているのは、その中でも長老格ですからね、
私たちがそうそう簡単になれるわけなどなかったのですよ。
子供の単純な思いつきでした。
それでも、いつかはそうなりたい、そう思って日々過ごしていたのですが、
補佐をしているその長老たち自体が、一癖も二癖もある方々でしてね。」
かすかなため息をつきながら、エディさんは苦笑した。
「二年前、突然リナス様を除く四人がやめると言い出したのですよ。
いい加減女王陛下との付き合いも長くなってきたし、
そろそろのんきな隠居生活を送ってもバチはあたらない、とか言い出して。
全員殺しても死にそうにない、隠居なんて文字は辞書にないような方々ですから、
女王陛下とリナス様は青くなったそうですよ。
どんな失態をして見限られたのか、とね。
次の日、後継者を連れてくるから楽しみにしておけ、と言われて、
神妙な面持ちで待っていたら、
何も知らずに、お使いの付き添いと騙された私たちが連れてこられた、
というわけですよ。」
おいおい、騙しすぎだし、騙されすぎ…。
でも。。。
「それは、ご隠居方の…」
「ええ、優しさ、ですね。
女王補佐は自分の責務を全うしながら、女王陛下を支えていかなくてはいけません。
まだ自分たちがいるうちは、それぞれの責務は手伝ってやるから、
補佐の仕事の修行をしてこい、ということでした。
さすがに驚きましたし、そんなことが許されるとは思いませんでした。
それが補佐だけの会議ではなく、六大賢者、各神殿から1名ずつの六大神官、
六舞姫、六騎士団長と時渡りのリナス様で構成されている
『二十七人会議』でも許されたのは本当に驚きでしたがね。」
基本的なことは女王が決めるが、定期的に『二十七人会議』、と言うのが開かれ、
様々な意見が交わされるのだそうだ。
後継者についても二十七人会議での承認が決まりとのこと。
27人もいたら、話がまとまらないんじゃ、とも思ったけれど、
案外うまくいってるらしい。
それにしても、皆が、エディさんやお兄様、カイやリセさんの気持ちを
汲んでくれたんだなぁ。
私が見ているこの国は、みんなお姉さまを愛してくれている気がする。
そして、お姉さまも全ての人を愛している、そんな気がする。
御伽噺だ、って言われるかもしれないけれど。
「なんだかうまくいえないんですけど、私、自分の故郷が素敵な国でよかったなって、
心から思ってます。」
そんな簡単なことではないんだろう、って、頭ではわかっている。
魔物も出るらしいし、病も死も、この幸せそうに見える国を襲う。
嫉妬や憎しみやどうにもならない黒い気持ちも心の中にない人などいないだろう。
それでも、と思えることがどこかにある。
大丈夫、なんとかなる、って、思わせてくれる人たちがたくさんいる。
ここは、お姉さまの国は、そんな国のように思える。
「そうですか。あなたにそう言っていただけると、
多分陛下が一番お喜びになります。」
私の、子供のような一言を、それでもエディさんは自分がほめられたかのように、
うれしそうに受け止めて、今日最高ににっこりと笑ってくれた。




