七人目の大賢者―04
「そう、マーサ様が助けてくださったの。」
「お姉さまもマーサ様をご存知なの?」
報告を兼ねた夕食の席で、今日の出来事をお姉さまに報告する。
1日ぶりに見るお姉さまはやっぱりきれいでキラキラだった。
長いテーブルには、昨日同様これでもか、というご馳走が並んでいる。
(ただし、いつもはこんなに並んでいないらしい。
お姉さまが私のためにはりきって頼んでいると、昨日リセさんが言っていた。
育ち盛りの男子高校生とかじゃないから、そんなに食べれないんだけどなぁ。)
お誕生日席に座ったお姉さまから見て、左手に私、その向かいにカイが座っている。
カイは私を城に連れてくると、夕食までどこに行ったのか姿を消し、
夕食時、眉間にものすごくしわを寄せながらこの部屋にやってきた。
そして今は黙々と食事をしている。
さっきから本当に不機嫌そうで、全く話をしようとしない。
私はと言うと、先ほどまでの小僧スタイルをリセさんからひっぺがされ、
今は若干おドレスっぽいものを着せられている。
しかし似合わないなー、トホホ。。。
「ええ、もちろんですとも。
ヨールは二年前までわたしの補佐をしてくれていたでしょう。
何度もヨールの家にも招かれたし、ここでも一緒に食事をしたわ。
何かと気遣ってくれて、ほんとうに優しくしてくださったのよ。」
若くして両親と別れて女王として過ごしてきたお姉さま。
その孤独を、ヨール様や他の方々が少しでも埋めてくださったのだろう。
私が言うのも何だけど、本当に感謝だ。
マーサ様のお話をもっと聞こうとすると、お姉さまは軽く睨みながらカイに話しかける。
美人はどんな顔をしてもきれいだなー、目の保養と思ったが。
「それにしても、カイはまだ気にしているの?
気にしていても仕方がないでしょう。
ヨール様ですら止められなかったのに、あなたに止められる訳がないでしょう?
いい加減その不細工な顔をおやめなさい。
もともとの顔が悪くないだけに、結構悲劇よ。」
お、お姉さま!
なんてすごい発言を!
…カイ、怒っているんじゃない、の?
「ほら、絹花が誤解してすっかり気にしてしまっているじゃない。
絹花、この子はね、別にあなたのことを怒っているわけではないのよ。
ただね。」
お姉さまが続けようとするのを、不機嫌MAXみたいな顔でカイがさえぎる。
「陛下。私のことを勝手に推測して決めつけないでください。
大変迷惑です。」
うわー、こわい…。
でも、お姉さまは、意にも介さずうっすらほほ笑みながら答える。
「そういう言い方をするときは、絶対に私の推測が当たっているのよね。
あなたたちと何年の付き合いだと思っているの?
そもそも私の推測が外れたことがあったかしら?
ないでしょう?
それとも、私の口から言われたくないなら、自分で言いますか?」
「…。」
カイは相変わらず苦虫をつぶしたような顔で、お姉さまを見ている。
そんなカイを見て、お姉さまは軽くため息をつく。
「言う気がないなら、もう下がっていいわ。
今日はご苦労様でした。」
「お姉さま!」
そ、そんな!
確かにずっと不機嫌そうだけど、突然帰れって、それはちょっとひどいんじゃ?
でも、カイはちょっとホッとしたように立ち上がった。
え?
「では、御前を失礼させていただきます。
絹花、またな。
今日は、その…。」
「え?」
立ち上がったカイは、ものすごく居心地悪そうに言いよどむ。
「助けてやれなくて悪かった。
ゆっくり休め。
じゃあな。」
早口で一気に言い終えると、あっけにとられた私を振り返りもせず、
優雅さの欠片もなくドシドシと早足で去っていく。
そんなカイを、お姉さまは大笑いしながら見送った。
「あー、面白いわね。ほんと、小さい頃から変ってないんだから、あの子は。」
いやいや、そうでなくて!
「お姉さま!」
「んー?
ああ、いいのよ。
あの子ね、昔から自分の力が足りないせいで誰かに迷惑をかけたり守ってやれなかったり、
そういうことが一番悔しいのよ。」
?それはどういうことですか…。
ちょっと状況が飲み込めないんですけど。
「今日、精霊にあなたが呼び出されたとき、近くにいたのに何もできなかったことが
悔しくて悔しくて仕方がないの。
自分に力がないからだ、って、自分のこと不本意に思っているの。
だから、あんなに不機嫌なのよ。
すごくあなたのこと、心配していたでしょう?」
そういえば、目が覚めたとき本当に青い顔をしていた。
それにマーサ様が言っていたっけ。
『この子が心配でたまらないでしょう。
異変には気づいても、どうしてやることもできず、今は真っ青ですわ。』
お姉さまは、ほんのりほほ笑みながら続ける。
「小さい頃からね、自分のことなんてどうでもよくてね。
自分の周りのことばかり守ろうとするのよ。
怪我も厭わないし、自分のことなら陰口なんて言われてもちっとも気にしない。
それなのに、私たちのことを誰かがちょっとでも何か言うと、
本気で怒って、どんなに分が悪くても全力でかかっていくのよ。
あなたが怪我をしたら、傷ついたら、私だって心配なのよ、って、
何度怒ったかわからないわ。
周りのみんなも心配しているし、本気で怒る。
でも変わらないのよ。
だからこそ強い賢者の力を持っているのでしょうし、
ヨール様を始めとした大賢者様方にも愛されているのだろうけれど。」
あの一瞬が、そんなにカイに心配かけてるなんて…。
今となってはちょっと面白かったと思っていた私、もしかして不謹慎?
「私、なんでもないのに。大丈夫なのに。」
「あなたに不安な思いをさせた、ってことを、気にしているのよ。
でも大丈夫よ。
さすがに昔よりはあれでも強くなったのよ。
明日には普通になっているから、今日はそっとしておいてやって。」
その後お姉さまとたわいない話をしながら夕食は終わり、部屋に戻った。
いろんなことがあったなぁ、と思い出しながら眠れないかも、と思いつつ
寝台に横になったら、三秒で私は眠った。
さすがに疲れの方が勝ったらしい。
そんなもんだろう。
第三章終了です。




