回想シーンがちょくちょく入ってなかなか旅立たない勇者
ネットの掲示板で長期連載になると回想シーンがちょくちょく入って本編が進まないという愚痴を目にしまして、だったら逆に回想シーンをメインにしたらどうかなと思って書きました。
「勇者アベルよ! 魔王を打ち倒し、世界に平和を取り戻すのだ!」
「はい、王様!」
オレは玉座の間で王様の前に膝をついて返事をした。
今、この世界は魔王の脅威にさらされている。
南の暗黒大陸に魔王が出現し、世界各地で魔物が暴れ回っているのだ。
オレはその魔王を倒すために立ち上がった勇者だった。
「それでは旅の支度金を授ける。これで装備を整えるが良い」
そう言ってずしりと大きな袋を渡された。
中には銀貨が10枚入っている。
オレはそれを見て思いを馳せた。
そう、あれはオレがまだ五歳か六歳の頃だ。
「アベルや。あなたにはじめてのおつかいを頼んでもいいかい?」
母がそう言ってオレに銀貨をくれた。確か2枚くらいだったと思う。
「夕食のおかずに大根とキャベツが欲しいんだけど買って来れるかな?」
「うん! 買ってこれるよ!」
オレははじめてのおつかいにワクワクしながらそう答えた。
ひとりで買い物をする。
それがすごいことだと当時のオレは思っていた。
しかし、いざ買い物に行こうと家を飛び出したら足がすくんで一歩も動けなかった。いつもは歩き慣れた道なのに怖くて歩けない。
きっとはじめてのおつかいというものがものすごくプレッシャーだったのだろう。
ぶるぶる震えながらその場で座り込んでしまった。
「アベル、大丈夫?」
母は心配そうに聞いてきた。
オレは「うん」と答えたものの、いくらたっても起き上がれない。
やがてぐじゅぐじゅと泣き出してしまい、情けなくも母と一緒に買い物に行ったのだった。
恥ずかしい昔の記憶だ。
「……懐かしいな」
銀貨の入った袋を握りしめながら感慨にふけっていると、王様が「おーい」と声をかけてきた。
「なんじゃ? 何かあったのか?」
「あ、いえ、なんでもありません!」
オレはハッとして頭を下げる。
いかん、いかん。昔のことを考えていたなんて言えるわけがない。
今は魔王旅立ちの前の重要な場面。気を引き締めなければ。
「なんでもないならいい。それよりも勇者アベルよ。そち一人では魔王討伐は大変じゃろう。イルーダの酒場にて仲間を集めるがよい」
「仲間を?」
「そう、共に旅する大事な仲間じゃ」
仲間。
仲間か……。
仲間と聞いてオレは十年前のことを思い出していた。
あれは忘れもしない、6月の雨の日だった。
仲の良かった友達のガウリィが突然引っ越すことになり、ずぶ濡れになりながら別れの挨拶に来てくれた。
「アベル、いきなりの別れでごめんな」
「ほんとだよ、ガウリィ。急に引っ越すなんて」
「オレは嫌だって言ったんだけどさ。父ちゃんの転勤だからどうしようもないんだ」
転勤と聞いて、子どものオレたちには確かにどうしようもないと思った。
駄々をこねても親を困らせるだけだ。
「そっか、それじゃ仕方ないね。でもいつでも会えるよね?」
「いや、三つ離れた町だからな、難しいかも」
「そんな……」
町が三つも離れるとなると、馬車で数日はかかる。
道中魔物も出るから簡単には行けないところだ。
つまりガウリィとは本当の意味で離ればなれになるということだ。
「やだ、やだよ。ガウリィ……」
「泣くなよ、アベル」
「でも、でもぉ……」
「泣くなって言ってるだろぉ……」
オレたちは互いに泣き合った。
けれどもそのうちガウリィが涙を拭いて勇気づけるように言った。
「アベル! オレとお前は仲間だ!」
「……え?」
「この前、一緒に森の中を探検しただろ? つまりオレたちは最初に登録したパーティーなんだ!」
確かにガウリィが引っ越す数日前に森の中を探検した。特に何もなかったけど、子どものオレたちには大冒険だった。
最初に登録したパーティーと聞いてオレは嬉しくなった。
「……うん! うん! そうだね! 僕とガウリィは最初に登録したパーティーだ!」
「離れていてもオレとお前はずっと仲間だってこと、忘れるんじゃないぞ」
「うん、そっちこそ」
こうして拳を突き合わせた翌日。
ガウリィは引っ越していった。
あれ以来、彼とは会っていない。元気だろうか。
「おーい、聞いてる?」
またもや王様の言葉に我に返った。
「ハッ! すいません、物思いにふけってました!」
「うん、そうだね。さっきから声をかけても微動だにしてなかったもんね」
いかん、いかん。
今は旅立ち前の重要な場面。
集中しなければ。
「ということで、イルーダの酒場で仲間を集めてね」
「はい、王様!」
「それでは、行け! 勇者アベルよ! 見事魔王を打ち倒してくるのじゃ!」
そう言って王様は立ち上がると、腕を突き出しなんか偉そうにふんぞり返った。
あ、このポーズ知ってる。
確かこれ、「少年よ大志を抱け」って言って腕を突き出してるグラーク王の決めポーズだ。
グラーク王。
あれは数年前、デッカイドー王国に旅行に行ったときのことだ。
何やら町中がお祭り騒ぎのような雰囲気だった。
それもそのはず。
デッカイドー王国のトップ、グラーク王が民衆の前で演説をしていたからだ。
多くの民衆を前にして、グラーク王は腕を突き出しながら
「少年たちよ! 大志を抱くのだ! byグラーク!」
とかなんとか言っていた。
なんか偉そうだなと思ったけど、その後気さくに国民に話しかけてる姿を見て
「近所のおじいちゃんみたいな人だな」
ってちょっと親近感がわいたっけ。
そうそう、このデッカイドー王国の旅行がなぜ実現したかというと、近所の福引き券でオレは見事一等を当てたのだ。普段から運の悪さで有名だったオレがまさか福引き券で一等を当てるとは。
おかげで両親と行ったデッカイドー旅行はすごく楽しかった。
デッカイドー名物のカニやイクラを堪能し、ザッポロ雪まつりで普段見慣れない雪に大興奮し、デッカイドーの子どもたちと雪遊びをし……
「おーーーーーーーーい」
ハッと我に返る。
しまった、また昔のことを思い出していた。
今はデッカイドー旅行などどうでもいい。
魔王討伐の旅に出なければ。
「大丈夫? 気分でも悪い?」
心配そうな顔をする王様にオレは「いえ!」と頭を下げた。
「申し訳ありません、大丈夫です」
「じ、じゃあ、魔王討伐、行ってきてくれるかな?」
「いいともー! ……じゃなくて、はい、王様! 勇者アベル、必ずや魔王を倒してご覧にいれましょう!」
「うむ、頼んだぞ!」
オレは踵を返すと玉座の間を出ようと歩き出した。
今気づいたが、玉座の間はふかふかの赤いカーペットが敷き詰められている。
とても高級そうなカーペットだ。
オレはそれを見て父のことを思い出した。
あれはいつだったか……。
父が満面の笑みで「カーペット買ってきたぞー」と言って何やら大きな敷物を持って帰ってきた。
でもそれはよく見るとカーペットではなく、ブルーシートだった。
そう、オレの父はカーペットの代わりとしてブルーシートを買ってきたのだ。
確かにブルーシートはいい。
丈夫だし、水を弾くし、場合によっては暖かいし。
でも家の中にブルーシートを敷くのはどうなんだ?
母も若干引いていた気がする。
結局、ブルーシート生活は半年くらいで終わり、今度は大きな段ボールを担いで持ってきた。
ブルーシートから段ボールって、ランク下がってんじゃんと思ったが、父は意気揚々と床に段ボールを敷き詰めた。
あれはなんだったんだろう。ブルーシートが思いのほか不評で、段ボールだったらいいだろうということで段ボールにしたのだろうか。
それとも代わりのものを探したが金がなかったために近所の武器屋か防具屋からもらってきたのだろうか。
いまだに当時の父の真意をつかめないでいる。
ちなみに床に敷いた段ボールはいまもそのままだ。
「おーーーーーーーーーーーーーーーーーーーい」
オレはハッと我に返った。
いかん、いかん。
また過去の思い出に浸っていた。
今は実家の床が段ボールだったことなどどうでもいい。
魔王を倒しに旅立たねば。
「勇者アベルよ、ほんとに大丈夫?」
王様がこれ以上ないという心配そうな目でオレを見ている。
「大丈夫です、王様」
「ほんとに?」
「はい、本当です」
これ以上ここにとどまると王様に余計な心配をかけてしまう。
オレは姿勢をただすと、頭を下げて言った。
「王様、ご安心ください。この勇者アベル、必ずや目的を果たしてご覧にいれましょう」
「うむ、そうか。心強いぞ勇者アベルよ」
「では行って参ります、王様」
「よし。行くのだ! 見事魔王を打ち倒してみせよ!」
城から出たオレはその足でホームセンターに行った。
「よーし、これで段ボール生活ともおさらばだ! 目指せ、快適生活!」
オレは王様からもらった銀貨でふかふかのカーペットを買って帰った。
カーペットが買えてよかったね。
お読みいただきありがとうございました。




