附箋の無いノート
今日、最高気温は27度らしい。
朝の天気予報で、そんなことを放送していた。
だが、どうかんがえても30度はゆうに超えているだろう。
僕のいる大学の一室で、クーラーが壊れているにもかかわらず、一生懸命講義を行う先生の根性は見上げるものがある。
広い講堂だが、階段のように段になった机が端から端まで置かれていて、一番前にある先生が講義を行うスペースしか十分な場所がないため、とても狭く感じてしまうのは仕方がないことだろうと思う。
しかし、クーラーが壊れているのは仕方がないでは済まされない。
「ちょっと、暑すぎない?」
和紙で作られた団扇をパタパタと扇いでいる、僕の席の隣のやつに喋りかける。僕らの席は結構後ろ側なので、先生は僕らが喋っていることすら認識できないだろう。
「まぁ、な。
最高気温は27度だと聞いたんだが、30度はあるな」
なんとまあ、僕と同じことを思っているようで。
暑そうな顔をしているのかと思い顔を向けると、案外いつもと変わらないみたいだ。
本人曰く暑いからという理由で、いつもはサラサラと靡く長い黒髪を後ろで一つに束ね、基本的に男性からの告白やメアド教えて等の台詞が絶えない綺麗な容姿がそのままとなっていた。
とても綺麗な流線型を描く彼女の輪郭と、ほんの少しだけ釣り上がった眼、透き通るような白い肌は、力強さと繊細さを備えているようで、彼女の性格を表しているよう。
まさに、大和撫子と呼ぶに相応しい外見。
「どうした?
そんなに見られると、顔に何かついていないか心配になるんだが」
彼女が僕の視線に気づいたらしく、彼女も視線をこちらに向ける。
僕はそれに、なんでもないと短い返事をして、自分の腕時計を見る。
もうそろそろ、本日最後の講義が終わる時間だった。
「凜、今日空いてる?」
今日、何人か誘って飲み会でもしようかな。
まあ、変な友達ばかりだけど。