04.
村を出発してから3日。
俺たちは変わり映えのしない街道をゆっくりと進んでいった。
幌馬車の荷台に藁をつめて作った寝台を用意し、幌をあげれば外からの風も適度に入ってくるよう調節できるようにしたが、アサミ様はヒマだからと御者台にいる俺の隣に座りたがった。
「ねぇヴァン、なんか面白い話してよ。」
「申し訳ありません、外の世界からいらしたアサミ様にお聞かせするような話など持ち合わせていないつまらん人間ですので。」
「かたっ!つまんなーい。」
アサミ様は髪をいじりながらあきらかに不満な顔をみせた。
この方が、貴族に囲まれた王宮で聖女として暮らしていけるのか心配になるほど、アサミ様は感情が顔に出る。
「王都に行けば娯楽もありますから。」
「今ヒマなんだってば。ねぇ、ヒマすぎて死ぬ。」
「暇で人は死にません。」
「真面目か!」
アサミ様はそういってカラカラと笑った。今のやりとりのどこに笑う要素があったのか全く謎だが、彼女は気にする様子もない。
「そうだ、恋バナしようよ。ヴァンはさ、彼女いないの?」
どうやら恋バナというのは恋の話を略したものらしい。なぜ略すと思いつつ、若い女性はどの世界でもこの手の話題が好きなのかと内心ため息をついた。
「そういった相手は特に。」
「え~、イケメンなのに?分かった、モテすぎて彼女いらんってやつ?」
「いえ、そんなことは。村に戻ってくる前は冒険者をしていまして、あちこち放浪していたので。村でも、そういう機会は特になく。」
アサミ様は、俺が冒険者だったことに食いついた。
「マジで?冒険者とか初めて見るんだけど?え、ヴァンも魔法とか使えるの?」
「多少なりとも。ですがアサミ様の方が魔力は上かと。」
「ま~りょ~く~!」
アサミ様は大げさすぎるほどに驚いて笑い、それから冒険者時代の話を熱心に聞いた。
かなり言動がアレだが、意外なことに彼女は聞き上手だった。
俺がぽつりぽつりと話すたびに「そんでそんで?」「かっこよ!」「偉すぎ」などと小気味よく相槌を打った。
頻繁に口にする「ヤバっ」という言葉は、おそらく驚きや褒め言葉のようなものなのだろう。
俺は15で村を出て、剣士として身を立てパーティに加入したところまでをかいつまんで話した。
「へぇ、冒険者にも色々あるんだ。で、なんで今は役所で働いてるの?やっぱ安定?」
そこに馬鹿にする色はなかった。あまりにかけ離れた仕事に、純粋に疑問なのだろう。
「そのパーティは数年続いたのですが、長く一緒にいるうちに方向性が違ってきてうまくいかなくなってしまいまして。精神的に参ってしまって今から他のパーティを探す気にもなれず…。ちょうどそのタイミングで母が倒れまして。うちは母子家庭だったので、潮時かと。」
逃げただけだと、何度言われたことだろう。負け犬、はもっと言われたな。
…思い出したら胃の辺りが苦しくなった。
「わかる~。結局さ、仕事内容より人間関係だよね。しかも若いのに介護とか、マジ大変すぎる。ヴァン大変じゃん。」
「いえ。母の病気は治って、今は年相応に元気にしていますよ。」
「じゃあ無理して役場で働かんくて良くない?」
意外だった。
出会って数日しかたっていない、異界からきた女性の目にはそんな風に映っていたのか。
村の人間とアサミ様とでは、俺に対する印象がまるで違っていて、自分が2人いるんじゃないかという気がしてきた。
「…無理、しているように見えますか?」
「めっちゃ見えるよ。見た感じヴァンが一番働いてんのに周りに気ぃ使い過ぎだしコキ使われ過ぎだし。仕事クッソ遅いくせにヴァンを見下してるおっさんとかマジでなんなん?ムトマはもっとヴァンのこと評価するべき。」
アサミ様の熱弁に、俺は他人の話を聞いているようだった。
「そんな風に思ったことはなかったのですが」
「自覚なしか。ヤバいって、ぜーったい休んだ方がいいよ。って今も仕事中か。あたしのせいで休めんよね、マジごめん。」
「いえ。…こんなことを言うのは不敬かもしれませんが、アサミ様と一緒にいると気持ちが楽になります。私一人では、あの村を出ようと思わなかったので。村を離れて良かったです。」
「そうなの?じゃあさ、今はまあ半分休みみたいなもんだと思って楽にしてなよ。敬語とかも使わなくていいし。」
「そういうわけには…。」
「いや私しかおらんし。こっちもタメ語のが気楽だし。あとヴァンのが年上だよね?何歳?」
「27です。」
「じゃあ私の3個上だ。タメ語じゃダメな理由なくない?」
「わかりました。では、王都に着くまで。」
「いや敬語だし。」
「すみません…いや、すまない。」
「そそ。先は長いし慣れてこ!」
これまで貴族や裕福な商人の護衛をしてきたが、くだけた言葉で話せといわれたことは今回が初めてだった。
なかなか慣れなくて、アサミ様はその度に「ほっらまた~」と笑って敬語をとがめた。
役場での扱いから一転して、ものすごく不思議な感じだったが、悪くはなかった。




