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【完結済】役場勤めの元冒険者は、白ギャル聖女に救われる  作者: 夕波@「不良債権」コミカライズアンソロ1/8発売


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3/13

03.

協議の結果、アサミ様は村長の屋敷に泊まることになった。

最初はその美しさにため息をついていた者たちも外見と中身の乖離っぷりに恐れすらなし、彼女の話は翌日には村の端から端まで浸透していた。


役場の人間たちも、とにかくこの破天荒な聖女を王都に送り届けて村に穏やかな日常を取り戻したい、ということですぐに意見がまとまったらしい。


「元冒険者のお前にしか頼めないことなのよ。光栄な仕事だと思いなさい。」


あれほど冒険者だった息子を恥じていたくせに、母親はこういう時だけ冒険者を持ち上げる。

王都から帰ってくれば、俺の評価はまた雑用を押し付け何を言ってもいい下っ端に戻るのだろう。


「いいかいエステヴァン。間違っても聖女様と男女の仲にならないようにね。村に帰ってきたら評判のいいうちにこの村の娘と結婚するのよ。今ならベイカー宿屋のとこのお嬢さんにも話をもっていけるわ。器量よしとは言えないけど、丈夫で安産体型だ。子どもをぽんぽん産めそうじゃないか。なによりあの店は繁盛しているし、よくよく考えて行動するのよ。」


どうしてだろう。

アサミ様が使っている言葉に比べたら、母親の話のほうがはるかに分かりやすいはずなのに、何を言っているのか頭が理解するのを拒否しているみたいだった。


俺は母親の自己満足のために、種馬になるために結婚するのか?

手足が冷たくなって、ひどく喉が渇いた。話が通じないのはこの村の人間だ。

村の人間と距離をおきたくて、アサミ様の護衛を引き受けると翌日急ごしらえで装備を揃えて旅に出た。


「お前の働きにこの村の未来がかかっておる。必ずや無事に聖女様を送り届けるのじゃぞ。」


村の重役たちは最後までアサミ様を名前で呼ばなかった。

元冒険者だからと軽く扱い下に見ている人間にしか未来を託せない村なんて、滅んでしまえばいい。

…とまでは思えないのが俺の甘さで、だから役場で黙々と働いているのだろう。


俺を死んだように生かしているのは俺自身でもあるのだ。はっきりものを言うアサミ様は、そんな俺とは真逆の性格をしているように見えた。

村長の屋敷では元いた世界と同じ化粧は施せないらしく、薄化粧のアサミ様は黙っていれば聖女にしか見えなかった。


それなりの体裁で送り出さなければと、村長は小さな幌馬車を用意してくれた。

本来ならばしかるべき馬車を用意するべきなのですが、と頭をさげれば、アサミ様は

「いいよ。ヴァンが送ってくれんなら。」と快活に笑った。


荷台には寝具と食料、それにテントや調理器具が乗せられ、宿のない街道でも野営をしながら進めそうだ。これなら10日あれば王都に行くことができるだろう。


「ある意味キャンピングカーじゃんね。アガるわ~!」

などと相変わらず意味の分からない言語を駆使して喜んでいたアサミ様も、馬車にはのりなれていなかったようで、出発して数時間もたたないうちに酔ってしまわれた。

豪快な笑い方と喋り方をするので忘れていたが、思っていたよりもずっと繊細な方だった。


「少し休みますか?」

「お願いしていい?マジ気持ち悪い。うえぇ。」


口元に手を当てるアサミ様は、それでも俺に「申し訳ねぇ」と謝る。

いきなり知らない世界に飛ばされて、こんな馬車に乗せられても人に気を遣う。そんな姿に思わずぐっときてしまった。


「失礼いたします。水です。」

俺はアサミ様の背中を支えて水を飲ませた。良く食べるのに、彼女の背中は恐ろしいほど華奢だった。


「マジありがとう。生き返る~。」

アサミ様はあぐらをかいて座り、ぐいっと口を拭うと大きくため息をついた。

道中、安全のためにと男の恰好をしてもらったが、こういった所作を見ているととても聖女には見えない。


「馬車がさ、マージーでー揺れるんだよね。実は魔法が使えてリムジン並みの乗り心地になったりしないかな。」


アサミ様はふざけて、殺傷力の高そうな爪が装備された人差し指をピンと立てて、

「リムジンに、なれ~~」と幌馬車を指さした。


「なんつって。いやリムジン乗ったことないし。」

そういって笑っていると、幌馬車が輝いた。

馬が落ち着いているのが不思議なくらい強い光が、一瞬あたりを真っ白にした。

「え…何、今の?こわっ。」


俺はすかさず幌馬車を点検した。

驚くことに、魔力の残滓が感じられる。それもかなり強い。やはりこの方は聖女なのだ。

試しに馬車を走らせてみると、驚くほどなめらかに走行した。


「乗り心地ヤバっ。あたし天才じゃない?」

荷台の窓からひょこりと顔を出して笑うアサミ様を見ていると、この旅がうまくいくに違いないと思えてくるから不思議だった。


押し付けられた仕事だったはずが、俺は久しぶりに腹の底から笑っていた。

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