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【完結済】役場勤めの元冒険者は、白ギャル聖女に救われる  作者: 夕波@「不良債権」コミカライズアンソロ1/8発売


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01.

母親の反対を押し切って冒険者になった。

流行り病で早くに父親を亡くし、母子家庭のつましい暮らしで見る夢といえば、冒険者になって一攫千金。それしか思いつかないようなド田舎の小さな村を出た。


冒険者になりさえすれば、この暮らしから抜け出せると信じていた15歳。

未来はどこまでも輝き、新しい一歩を踏み出した自分は無敵だと思っていた。

27歳になって、まさか冒険者を辞めてこの村に出戻り、村役場で働いているとは予想もしなかっただろう。



「ちょっとエステヴァン。牛の登録なんだけどね、アンタここオスだって書いてるだろう。間違ってんのよ。性別違うとさぁ、それだけで税率違ってくるんだからしっかりやってもらわんと。」


俺は深く息をすって笑顔を作った。この書類は先週一緒に作ったものだ。

手が痛くて字が書けないというから代わりに記入した。間違いがないか何度も確認して、大丈夫といっていたはずなのに、俺が間違ったことになっている。


「あんた、冒険者なんていい加減なことやってたからこういうことわっかんねぇんだよなぁ。」


「男は嫁さんもらって一人前だ。お前さんもとっとと結婚して、やることやって子どもこさえんと。したらこんなミスなんかしねぇっつの。家族を養う責任感がないとなぁ。」


結婚して子供を作ったら仕事ができるようになるというのなら、この役場の既婚者はみんな優秀だということになるが、そう思えないのは俺が「元冒険者なんて常識がなってない」からなのだろうか。


仮にそうだったとしても、区分ごとの税率とか作地面積における収穫量の計上、家畜の登録や見舞金の申請とか、俺が分からなかったらこの役場詰まないか?と思ったが、そんな裏の仕事は彼らには見えないらしい。


細かい数字と文字がならんだだけで、村人たちは拒否反応を示す。そのくせどんなに地味な仕事を頑張っても、表の書類の不備1つだけで口の端につばをためて攻撃してくる。

他者の小さなミスをせめることである種の快楽を得ているのだろう。こういう輩はみななぜか活き活きとしている。


反論は彼らの活きをよくするだけだ。俺は「申し訳ありませんでした。」とだけ言って頭を下げる。

これでいい。どより。笑顔を作るたび心に澱がたまる。少しずつ。ゆっくりと。

気付いた時にはいろんなものが濁って、よどんで、逃げるようにどんな雑務でも引き受けてひたすら仕事に集中した。

結果、この村から再び脱け出す気力もなくなっていた。

 


聖女様が召喚されたらしい。国一番のニュースは、俺のすむムトマ村にも流れてきた。


この村は外に売り込めるものがない代わりに、大きな町と町の中継点にあるため宿屋だけはそれなりにあって繁盛している。この村でその身と馬を休ませる行商人たちは口をそろえていった。


「聖女様は5人もおいでなさったらしい。なんでも、一人は王都で保護されたが、あとの4人がどこにいるかはまだ分かってないらしい。これを見つけて王城につれていけば、かなりの報酬がもらえるはずだ。」


村はこの話題でもちきりだった。おそらく他の街や都市でも同じだろう。若い女ひとり王都に連れていくだけで、大金が稼げるのだ。まあ、こんな辺鄙なクソみたいな村には関係のない話だろう。

そしてクソみたいな村役場にしか居場所がない俺も、クソ中のクソだ。とにかく俺には関係のない話だと、そう思っていたのだが。


朝、仕事にいく仕度をしていると家のドアが強く叩かれた。

やってきたのは村で使い走りをしているトマで、全速力で走ってきたのか息を切らせている。


「大変だエステヴァン、早く役場にきてくれ。」


トマの慌てようから、俺はてっきり誰かが殺されたか、魔獣が出たのかと思った。そういう時だけ、元冒険者として頼りにされるのだ。

面倒ごとはご免だがこれも役場の仕事かと急いで向かったが、誰も死んではいなかった。


応接室のソファに座っていたのは、見惚れるほどに美しい若い娘だった。

彼女をとりかこむように、周りには村のお偉方と自警団の連中が所在なさげに立っている。


ひと目で分かった。彼女が、聖女だ。

この辺りでは見たことのない黒い髪。それがゆるやかに背中まで伸びている。

肩ひもが細く、外に出るにははばかられるような薄い白いドレスを纏ってサンダルを履いている。


寝室から召喚されたのか。それにしては耳や腕の装身具を着用しているし、見た事のない透明なグラスにカップのついた飲み物を手にしている。

最も不可解なのは、爪だった。なにかのまじないだろうか。魔獣の爪のようにおそろしく長く尖っているが、薄桃色で根本に並べられた小さな宝石がキラキラと光っていた。


真っ黒な長いまつげに囲まれた瞳はうるんでいる。よく手入れをされているのだろう。白い肌も髪も美しい。

この辺りでは、いや、王都にいた頃に会った貴族令嬢だってこんなにも艶めいてはいなかった。

そして何と言っても、これまでに嗅いだのことない、信じられないほど良い香りがした。

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