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おまけ

「ミヤコさん、彼、上手くやって行けると思いますか?」


 先程の面会から数分後。彼、こと本山イシズはラプサー班の隊員数名に連れられて談話室へと向かった。隊長室に残るのはキサラとミヤコのみ。ミヤコは顎に手を添えてうーん、と考える仕草をした。


「どうだろうね、今年は曲者の集いになってる事だし、トラブルが起きないようにオレたちがしっかりしないといけないかもね。」


今年の新人は計5人。上半期でこの数はいささか多いのではないだろうか。最近の一般警察はどうも気が緩んでしまっているらしい。大事件の基準が以前と比べて上がり切ってしまっているためだろうか。それならば今一度危険性を全力で主張したいところだが、そうにもいかないのが異特という組織である。抱える頭がたりやしない。このままでは一般警察が皆異特入りしてしまいそうだ。皆それぞれの事情を抱えて配属された今年の新人たち。そしてそのうちの1人、懸念が残る対象がいる。


「最年少で異特配属…まさかそんなもの好きがいた事に未だに驚いている。」


「自分で稽古をつけた癖にねー。あの子、今どんな感じだい?」


キサラには数人、弟子がいる。彼女の華麗な戦闘に憧れて教えを乞うてきた異特人員たちだ。だがほとんどは長く続かない。ミーハーなやつは直ぐにやめていく。キサラは超がいくつもつくほどの真面目で、決めた訓練メニューはもちろん、自主訓練もぬかりない。それだけならまあすこし訓練を積んだ一般警察でもついてこれるだろう。しかし彼女は規格外なのだ。基礎メニュー一時間分を三十分で終わらせ、直後に同じ内容を数十回繰り返す。常人なら一度で足が震える。二度目で吐く。三度目で辞める。はっきり言ってしまおう。地獄である。ミヤコですら彼女の訓練には参加したくないほどだ。だか例の人物、キサラが心配する新人は違った。ミヤコの半分ほどの歳だというのに全力でキサラの訓練に噛み付いている。たまに追いつけなくなって訓練室で寝そべり、静かに天井をにらみつけているのを見かけるが、あの小さな体のどこにそんな根性が隠れているのだろうか。


「それなりによく仕上がってるぞ。あ、仕上がっています。」


「敬語が苦手なら別に構わないって言ってるのに。」


「いえ、これは私なりのケジメです。」


ミヤコはかるく息を吐く。仕上がっているなら良かった。異特として異常な物と接しているが変わらず人間。未熟な未成年をこんな歪な世界に連れてくるのはやはり良心が痛む。けれどもキサラの目から見て上手く訓練が進んでいるなら最低限自分の身は自分で守れるはずだ。そう思ったのだが、キサラは不安が残るようでしきりに目線を泳がせている。


「……何が不安なんだい?」


「あっ、不安、という程では……」


「本当に?」


キサラが俯く。師匠としていちばん近くにいるのだから相手のことはいちばん理解しているはずだ。それ故に気になることもあるのだろう。ミヤコは静かに、責めたりはしないという意を込めてキサラを(目は隠れていて見えないが)見つめる。隊長ならば、隊員の憂事は真摯に聞いてあげるのが正解だろう。


「……不安、ではないのですが。彼女は少し、難しい性格をしているんだ。それが原因で上手くいかなかったら私はどうしたらいいのだろ…でしょうか。」


ミヤコはその言葉をゆっくりと噛み砕き、飲み込んだ。人の上に立つ存在は誰だってその悩みにぶつかる。ミヤコだって過去はそうだったのだ。


「キサラから見て、彼女は問題児なのかい?」


「いえ、そういう訳ではありません。とても優秀だと。」


「なら大丈夫だよ。もし何かあっても、よっぽどの事じゃない限り本人に任せた方が上手くいくこともあるんだ。何もかも介入してしまったら相手から成長を奪うことになってしまう。オレたち大人ができることは、口を挟みたい心をぐっと我慢して見守ることだよ。」


キサラはしばらくポカンと口を開けていた。やがて自分なりの解釈で言葉を受け入れたようだ。表情が一気にパァっと明るくなる。


「彼女の1番近くにいるからこそ、彼女を信じてあげたら?オレはそう思うよ。」


「なるほど!かえって手を加えない方が本人のためになるのか、そうだな。私が信じてやらないといけないな。ありがとうございます、ミヤコさん。」


「ふふ、オレは何もしてないさ。」


この人はどこまで謙虚なのだろう。キサラは思う。身体に異常性を抱えているというのに健常者に寄り添い、助け出そうとする。彼の優しさに惹かれ、他の班から移動してくる者もいるくらいだ。だからもどかしい。見た目のせいで彼を遠巻きにしている人々は一定数存在する。あぁ、彼が被爆者でさえなければ。どれだけ願っても、自分の尊敬する人物は仮面で彼自身を隠さなければならない異常を抱えているのだ。


「さて、オレはこの後第2小隊と情報共有をしてくるよ。隊員たちのことは頼んだよ。」


「はい。任せてください!」


ミヤコが扉の方へと歩き出す。ふと思い出してその背中に呼びかけた。


「ミヤコさん、お願いですから第2小隊の副隊長と喧嘩しないでくださいね。会議室を片付けるのはもう懲り懲りだ……」


「うーん、あれはあっちが悪いからね。まぁ善処するよ。」


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