最終話
「…………」
先代側妃は、離宮でとある報告書を読んでいた。
それを読み終えた先代側妃は、報告書を侍女に渡し、暖炉で燃やすように言い放った。
侍女は報告書を暖炉にくべ、火をつける。
数枚の報告書はあっという間に灰となり、そこに何が書いてあったのか分からない。
(ふふ、やっとロイたちの邪魔をした者たちが全員いなくなったわね)
報告書は、デレクア伯爵と国王の側近が書いたものだ。
その中身は、ユーニスやロイと関わり、犯罪を犯した者たちの末路を記録したもの。
ドミニク、モニカ、そしてドミニクを騙して結果的にユーニスを傷つけた3人の平民の娘。
その全員が、『無事に』死亡したという内容の報告書を読み終えた先代側妃は、その口元に可愛らしい容姿とは裏腹の、悪女めいた笑みを浮かべていた。
(わざわざ招待した甲斐があったわ。予想通り、自滅してくれたんだもの)
ドミニクとモニカを、ロイとユーニスの婚約お披露目会に招待した人物。
それは先代側妃その人だ。
(あの二人は、この先必ずロイとユーニスちゃんの厄介ごとになるわ)
ユーニスと対面を果たし、ウォルトも抱っこした後、先代側妃はそんな予感を覚えた。
ドミニクとモニカは、絶対に二人に未練を残している。
そのままにしておかないよう、先代側妃は一計を案じることにしたのだ。
一計と言っても、ただ彼らを呼んだだけ。
あとは彼らが勝手に自爆し、自ら罪を重ねたにすぎない。
さらに、彼らの自爆をより大きくさせるため、デレクア侯爵とスタルタス公爵にはお披露目会で息子、娘に接触することを密命で禁じた。それもあって、二人は堂々と王命を無視する発言を行った。
おかげで、二人は自ら取返しのつかない事態へと足を進めてくれたのだ。それを報告で聞いた時は、笑いすぎておなかが痛くなってしまった。
ドミニクは、父の代わりに後を継いだ彼の実兄が、王家への忠誠心を見せるため、自らの手で刑を考案・執行した。
沖合に捨てるという手間と時間がかかる方法を採用したのは、間違ってもドミニクの死をユーニスに知らせないためだった。元夫とはいえ、その死を知れば悲しむかもしれない。その配慮が、元デレクア侯爵と違い、長男のマイクにはあった。
モニカは、デルフォーミス辺境伯に嫁がせた。嫁ぐくらいなら死を選ぶとされるデルフォーミス辺境伯を選んだのは、モニカへの罰と、跡継ぎ不在の恐れのある辺境伯の問題を解決するという、一挙両得の目的があった。
狙い通り、跡継ぎは出来たが、モニカの病死は予想外だった。さすがにデルフォーミス辺境伯が彼女を死なせないようにと立ち回ると思っていたが、想定以上にモニカの自殺願望は強かったようだ。
(まぁ、生きてても死んでも、どちらでもいいわ。かわいいロイを弄んだんだもの。それにふさわしい罰が下っただけよ)
先代側妃はモニカが大嫌いだ。かわいい息子の婚約者になれたのにいつまでも結婚せず、挙句不貞を犯した。国王が『温情』でドミニクと婚約で済ませたのに、それすら理解できない愚者の行き着く先は地獄しかないのだ。
ドミニクを騙し、間接的にユーニスを傷つけた3人の小娘も同様だ。
本来であれば死刑のところを、まだ侯爵であったデレクア侯爵が金を惜しんで娼館で働かせた。
結果的には、すぐに死んだほうがマシだったと思うような辛い目に合わせたのだから、結果オーライと言える。
それに、彼女らは貴族を弄ぶという大罪を犯した。
簡単に死なせてはならないという意見もあったのだ。
全てに片が付き、先代側妃の顔に満足げな笑みが浮かんでいる。5人の死の背後で暗躍したとは思えない、清々しい笑顔だ。
(ふふっ、これでもうロイたちの邪魔をする者はいないわね)
伊達に王女をやっていない。
先代側妃は先代王妃や先代国王と仲がいい。それは性格の二面性を見抜き、ただの世間知らずな王女様ではないというところが気に入られている。
その残虐性は国内でも指折りだ。それを知る者はごくわずかで、母の裏の顔はロイすら知らない。
そんな彼女が窓から下を覗くと、そこには4人の睦まじい家族の姿があった。
愛しい息子であるロイと、結婚して義娘となったユーニス。
ロイの腕の中にはもうすぐ3歳になるウォルトと、最近生まれた娘のケイトがいる。
ロイのたくましい腕の中ですっぽり収まるウォルトも、ユーニスに抱きかかえられたケイト、二人とも紫の瞳を持っている。
2年前に結婚したのを機に、ユーニスも王宮に移り住んでいる。
新たに王弟宮が建てられ、ロイとユーニス、そしてその子供たちはそこで暮らしていた。
先代側妃はしょっちゅう顔を出しては、ウォルトやケイトと戯れている。
通いすぎて、父であるロイよりも一緒に過ごしており、ロイから不満の声が上がっているが気にしない。
「ふふっ、おばあちゃんというのは、こういう時に都合がいいものなのよ」
そう言うとロイは納得できないと言った感じで口を尖らせた。
2児の父となったというのに、母である先代側妃からすればまだまだ可愛い息子といった感じだ。そんな息子をユーニスもかわいいと思っているから、なおさら気に入ってしまった。
愛する息子、愛する義娘、愛する孫たち。
そんな彼らの平穏な日常が、無事に約束されたものとなった。
(汚れ仕事も、おばあちゃんの役目よ)
3人の顔には笑顔が溢れ、ケイトはユーニスの腕の中ですやすやと眠っている。
その光景を、先代側妃は満足そうに眺めていた。
~fin~




