第22話~托卵を企てた者たちの転落~
メリンダ、ノーマ、マリンは王都で知り合った。
それぞれが地方の出身であり、幼いころから小さな村や町の中では評判の美人として知られていた。
彼女らはその美貌で、王都の金持ちと結婚し、裕福な生活を送ろうと上京してきたのだ。
しかし、所詮は地方での話。
王都に来れば評判だった容姿も凡庸となり、彼女らは誰の目にも止まらない。
思った生活が送れず、酒場で飲んだくれていたところで、3人は知り合った。
3人はそれぞれ日銭を稼ぐ程度の仕事しかしておらず、その中でもわずかな金を使っては酒場で「どうやって金持ちの男をゲットするか?」の話題ばかりだ。
その中で、標的となったのがドミニクだった。
発端はメリンダだ。
「ねぇ知ってる?ちょっと高級な商品扱ってるんだけど、そこの店員がちょろくて、ちょっとお願いするだけで半額とかにまけてくれるの」
「うっそぉ!?そんないいお店あるの、どこのお店よ?」
「もったいぶらないで、早く教えてよ」
メリンダの情報提供により、ドミニクは3人娘の餌食となった。
すっかり味を占めた3人だが、そのうちメリンダが行きずりの男の子どもを妊娠してしまった。
「あ~、やだやだ。さっさと下ろしたいけど、お金かかるし、産んだら捨てるしかないわね」
そうメリンダがぼやいたところ、マリンは名案が思い付いたとばかりに目を光らせた。
「ねぇメリンダ、そう言えばあの店員、実は貴族のボンボンだって知ってた?」
「えっ、そうなの?確かにちょっとカッコいいけど、頼りなさげでそんな感じしなかったし、信じらんない」
「あー、私も聞いたわ。すっごいお金持ちの貴族の息子らしいわよ。それが?」
ノーマの疑問に、マリンは口に人差し指を立て、内緒の話だと合図する。
二人は顔を寄せ、こそこそと話しあった。
「あのちょろいボンボンを騙して、『あなたの子どもよ!』って言って養育費を貰うのよ。金持ちなんだもの、平民の養育費くらいポンっと払ってくれるわよ」
「いいわね!じゃあ、既成事実作るためにあの男に抱かれろってこと?」
「ええ~?さすがにそこまでしてくれるかしら?」
ノーマは懐疑的だが、マリンは自信ありげだ。
「いけるわよ。ああいう男は下心があって、女性の頼みごとをほいほい聞いてるの。むしろ待ち構えてるはずよ。それに、もう結婚してるから『結婚してくれ』っても言われない。好みじゃないでしょ、あんな優男」
「まぁ、それもそうね」
「よーし、じゃあ早速行ってくるわ」
マリンの話にメリンダはノリノリだ。
ノーマはやれやれと思いつつ、「うまく言ったら教えてちょうだいよ」とちゃっかりしている。
それから数日後。
再び集まった3人は、メリンダがどうだったのかを興味津々だ。
といっても、笑みを隠せないでいるメリンダを見れば、答えは明白である。
「その顔、うまくいったみたいね?」
「あ、わかる~?もうね、すっごいちょろい!ちょっと誘ったら簡単に釣れたわ!ドミニクっていったっけ?しかもさ、短小ですごい早くて拍子抜けするぐらいあっさり終わったわ。ちょっとは楽しませてもらえると思ったのに」
「いいじゃない。あんまり早い時期でガンガンやられると、流産するって話もあるわ。そうしたら元も子もないでしょ?」
「そうね、それもそうだわ」
そして数か月後。
メリンダは子どもを産んだ。
そして作戦通り、ドミニクの下へ押しかけ、養育費をだまし取ることに成功。
作戦がうまくいったことに、三人は笑いが止まらない。
「さー、今日は私の奢りよ!」
「ごちになりまーす!」
「うわ、ほんとあっさりうまくいったわね。子どもはどうしたの?」
「そこらの孤児院に捨ててきたわ。あとは勝手に育ててくれるでしょ」
「あはは、鬼畜だわ!」
これに味を占めた3人は、その後もノーマ、マリンと同じ手で養育費をだまし取ることに成功した。
養育費で欲しい服やバッグを買い、美味いご飯を食べる。
遊んでいた男たちにも金を振る舞い、遊んだ。子どもは全員孤児院へと捨てた。
マリンのときにはドミニクも警戒し、「子供ができても屋敷には来ないでほしい」と言われたが、そんなことは知らない。むしろ、自分からそんな弱みを見せてくれるのだから、3人の笑いの種にさせてもらったくらいだ。
当然マリンは直接屋敷に出向き、動揺したドミニク相手に養育費をだまし取ることに成功。高笑いが止まらない。
金があり、飯も服も欲しいものはすべて買えた。3人娘の最も幸福な瞬間だった。
しかし、3人の下にドミニクが来たことで状況は一変。
3人は完全にドミニカを馬鹿にしており、子どもがドミニクの血を引いていないこと、騙したことを暴露してしまった。
女に騙されたことなんて口が裂けても言えない小心者。そう思っていたのだが、ドミニクはあっさりと父に報告したのだ。
その後、3人の下に街の衛兵が訪れることになる。
「あなたには、デレクア侯爵家の血筋を引いた子どもを産んだという虚偽の報告をし、その養育費をだまし取ったという詐欺で被害届が出ております。同行願えますね?」
「えっ、う、うそ……」
3人は捕まり、すぐに裁判に掛けられた。
高位貴族であるデレクア侯爵家に対する詐欺行為、その金額の大きさから、判決では死罪が求刑されたという。
死罪という現実を前にし、3人は泣きながら弁明した。
そんなつもりはなかった、少しお金を分けてもらうつもりでやったに過ぎない、騙された方が悪いなどなど。
しかし、そこに騙されたデレクア侯爵自身が法廷にて、刑の変更を求めたという。
侯爵曰く、死罪ではだまし取られた金が返ってこない。
まずは返金措置を求めるという。
結果、3人は娼館に引き渡され、そこでだまし取った金を全額返金するまで出られないという罰を受けた。
娼館でやっと顔を合わせた3人は、互いを罵り合う醜い姿を披露した。
「アンタのせいよ!あんたが騙して養育費を貰おうなんて言い出さなければ、こんなことにはならなかったのよ!」
「何よ!あんただってノリノリだったし、奪った金で散々豪遊したじゃない!さっさと使い切って、私のお金も使ったじゃない!」
「アンタが暴露なんかするから、訴えられたんじゃない!うまく誤魔化せばこんなことにならなかったのに!」
しかし、その罵り合いも長くは続かない。
彼女らは、ここで娼婦として客の相手をするために連れてこられたのだから。
逃げようとしても、娼館の前後には用心棒が立っており、その隙が無い。
最初は効率よく返金できるよう、金払いの良い太客である高位貴族や豪商を相手にしていた。
しかし、所詮顔だけの素人。
彼らを満足させられるサービスが提供できるわけもなく、徐々に指名から外されるようになる。
そうなると、今度は細客の相手をさせられるようになった。
細客は下位貴族や、少し張り切ってお金を出して楽しみたいとする商人だ。
しかし、だんだんと細客からも相手にされなくなる。
不衛生な環境や、満足に取れない食事の影響で、容姿や体型に女性としての魅力が薄れてきたのだ。
そうなると、細客以下の客。
いわばごろつきや日雇い労働者といった、底辺層の相手しかなくなる。
だが、彼らの相手はどんな娼婦であってもしたくない。最悪の衛生環境にある彼らとすれば、どんな病気をもらうかわからないからだ。
しかし3人に拒否権は無い。働いて金を返し終えるまで、娼館を出ることは許されない。
どんな客でも相手にしないといけないのだ。
底辺層の客には娼婦相手に何をしてもいいと考える者もおり、殴られたり、蹴られたりすることもあった。無理やりなプレイに応じさせられることもあるが、店側はそんな客の横暴を見て見ぬふり。
今の3人娘にはそんな客しかつかない。
金さえ出せば、どんな客でも客なのだ。
そして、そんな地獄のような働き方をしていれば、長く続くわけもない。
最初にドミニクから金をだまし取ったメリンダは、性病を患い、明日をも知れぬ状態となった。
(…なんで、こんなことになったんだろう……)
硬い木の板と薄い布切れ一枚敷いただけの寝台の上で、これまた薄い布団にくるまりながら、メリンダは虚ろな目で天井を見つめながら、自分の人生を思い返していた。
いい生活がしたいと思ったから?
上京したから?
マリンやノーマと出会ってしまったから?
ドミニクと出会ったから?
マリンの案に乗ってしまったから?
ドミニクを馬鹿にし、暴露してしまったから?
どこで後悔すればいいのか分からない。
そうして、誰にも看取られることなく、メリンダはひっそりと息を引き取った。娼館で働き始めて1年と半年が少し過ぎた頃のことだった。
それから半年後にマリンが。
さらに1年後にノーマも病気で亡くなった。
彼女らは、だまし取った金を返しきることはできず、娼館でみじめな最期を迎えた。
金を全額取り戻せなかったことに、伯爵位を継いだマイクは3人が死んだという報告を受け、忌々し気に呟いた。
「金も返せず死ぬなど、これだから愚か者は困る」
唯一、3人の死に送られた言葉は、それだけだった。




