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[長編版]三度裏切られたので堪忍袋の緒が切れました  作者: 蒼黒せい


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第16話~モニカの憂鬱~

「はぁ…全く信じられないわ」


 フワフワの桃色の髪を揺らしながら、自分にあてがわれた貧相な部屋の中でモニカはため息を吐いた。


 モニカ・スタルタス。それが彼女の名。

 生粋の公爵令嬢として蝶よ花よと育てられ、この国で最も優雅な生まれの貴族として、何不自由ない生活を送っていた。

 軽やかに揺れるピンクの髪は誰が見ても愛らしく、澄み渡るような空色の瞳は純粋さそのもの。全体的に小柄で、少したれ目がちな瞳が庇護欲を誘う。小柄だが出ているところは出ているので、そのアンバランスさが魅力の一つにもなっている。

 父も母も彼女を溺愛し、兄弟たちとも仲がいい。


 将来には王弟殿下との婚姻も決まり、その人生は何もかもが約束された素敵なものになる…はずだった。

 しかし今の彼女はそのすべてを失っている。


 王弟殿下との婚約は解消。

 公爵家の恩恵は受けられなくなり、今は金だけはある侯爵家の次男と婚約。しかしその次男は訳アリで、彼自身は全然金を持っていない。

 今は公爵家の屋敷に比べれば犬小屋同然の、小さな屋敷の一室に住まわされている。


 持ってこれたドレスも一部だけ。新しいドレスが欲しくても、高位貴族に相応しくない低品質のドレスしか買ってもらえない。そもそも、買ってすらくれないときもある。

 部屋の内装も貧相極まりなく、公爵家で栄華に浸っていたモニカには耐えがたいほどだ。


(まったく…あの侍女がミスしたせいで全て台無しになってしまったわ!折檻したいのに、お父様は早々にクビにしてしまって行方知れずだし。私はこんな罪人みたいな扱い…許せないわ!)


 己の所業は一切省みず、秘密がバレる原因になった侍女への憎しみにモニカは顔をしかめた。


 モニカには人には言えない秘密があった。

 それが美少年好きという性癖だ。しかも9~11歳までと、極めて限定的な年齢の少年にだけ興奮するのだ。


 モニカが初めてその性癖に目覚めたのは今からもう10年前、15歳のころ。

 孤児院へ寄付に訪れたとき、孤児の中に顔立ちの整った美少年を見つけたのだ。そのときモニカは、まるで落雷に撃たれたかのような感覚に襲われた。


(ああ……なんて美味しそうなのかしら)


 そこからは早かった。

 モニカは侍女二人を使い、少年を孤児院の使っていない部屋に連れ込み、情事に及んだ。そのときに破瓜も済ませている。


 自身も初めてなはずなのに、羞恥も恐れも何一つ感じなかった。そんなものよりも、目の前の美少年を弄ぶ興奮にすべてが支配され、無我夢中のままに嬲り尽くした。


 当時10歳だった少年は、女性に興味を持ち始める絶妙な年齢。

 モニカに体をいいように弄られ恐怖を感じながらも、一方で性への好奇心から、年上の女性の体から目が離せない。見てはいけないと目をそらしながら、誘惑に負けて戻ってくる。そのあどけない仕草がたまらない。

 さらに、少年らしい瑞々しくも張りと柔らかさを兼ね備えた肌。細長い手足。小さくも未熟な性器。

 そのすべてがモニカを魅了した。


(素晴らしいわ。男性でいて、でも女性のようでもあるこの中性具合。私に押し倒されても、男のプライドが許さないと反抗的な目。けれどその中に光る性への興味。私の指先に敏感に反応する薄い肌。どうして私は、こんな魅力的な存在を今まで見逃していたんでしょう)


 モニカにとって大事なのは、怯えと好奇心の両立だ。行為に慣れ、怯えを無くした少年に用はない。

 一人の少年に対し、求めるのは一度ないし二度まで。それ以上は慣れを感じて相手にしたくない。


 モニカが拒否しているのにそれでも迫る少年は、護衛を使って脅迫させた。

 見張りをさせる侍女たちには大金を握らせ、口外させない。


 その少し後、王弟であるロイとの婚約が決まった。父であるスタルタス公爵と国王の合意であり、事実上の王命だ。断るのは難しい。


 1歳しか違わないのに大人の男らしさを見せる彼は、モニカの眼中にない。そこにはときめきも憧れもなかった。ただ、図体のでかい目ざわりが男が周囲をうろつくようになったのが気に入らなかった。


 とはいえ相手は王弟。無碍な態度をとれば、面倒なことになりかねないだろう。モニカは表向き貞淑な令嬢を演じながらも、ロイとは適度な距離を保った。


 プロポーズされても少しためらう素振りを見せれば、彼もモニカの父であるスタルタス公爵も、理由を聞いて結婚を延期してくれた。


(あんな方との結婚なんてまっぴらごめんよ。夜も絶対イヤ。なんとか婚約解消して、美少年たちと楽しみたいわ)


 どうすれば王弟との婚約を解消できるか。自信がないという理由だけではそろそろ年齢的にも厳しい。もう婚約して10年になろうとしている。ロイも焦れてきているし、父も最近は渋い顔だ。


(いっそ、ロイ様に不貞をさせれば、あちらの有責で婚約解消できないかしら?ああでも、馬鹿みたいに私一筋なのよね。難しいわ)


 どうすればいいか、それを考えていたときに悲劇が起きた。


 起きた場所は王宮。

 父を訪れた帰り、なんと下男見習いの美しくも幼い美少年を見つけてしまったのだ。モニカはわき目もふらずに少年を王宮の一室に連れ込み、情事に及んだ。


 しかしここでミスが生じる。

 見張りに立っていた侍女が、トイレが我慢できなくなったなどと下らない理由で扉の前を離れてしまったのだ。そのわずかな時間の隙に、たまたま来た女中が部屋を掃除するために入ってきてしまった。


 それからはもう大騒ぎだ。

 モニカの性癖がばれて国王は怒り狂い、公爵は涙ながらに謝罪。モニカは屋敷に軟禁となった。

 婚約はせめてもの温情で解消扱いだが、実質破棄だ。慰謝料として莫大な金が王家に支払われ、スタルタス公爵家は一転して財政危機の憂き目に遭っている。


 狙い通り婚約を解消できたけれど、軟禁されては意味がない。

 専属侍女も解雇された。当然モニカの周囲から美少年は排除され、鬱憤はたまるばかり。


(何よ、ちょっとかわいい男の子と楽しんでただけなのに、みんな騒ぎすぎなのよ。ちゃんと避妊薬だって飲んでて、子どもも作ってない。何が問題だっていうのよ!)


 そう父に訴えても、悲しい顔で横に振るだけだ。

 全然モニカの言い分を聞いてくれない。


 慰謝料のせいで財政も危うくなり、好きに買っていたドレスや宝石も買ってもらえなくなった。両親はまだしも、後継ぎである兄は露骨にモニカを嫌悪するようになった。

 信用と財産、その二つの立て直しを求められる中での引継ぎだ。モニカを責めるのも仕方ない。


 愛しい美少年の肌に触れられず、ストレス発散代わりの買い物もできない。悶々とした日々が続いたころ、突然モニカの婚約が決まった。


 相手はデレクア侯爵家の次男ドミニク。

 家格が下、それも嫡男ではなく次男など侮辱しているとしか思えない。

 憤慨したモニカは、父親に訴えた。


「どういうことですのお父様!なぜ私が侯爵家の次男なんかに…」

「王命だからだ。訳アリ同士でくっついていろという、国王陛下のご命令だよ」


 スタルタス公爵は疲れた顔で娘を見た。

 どうしてこんな娘に育ってしまったのか、どこで教育を間違えたのかと悔恨の念がその瞳には映っている。


 だが、そんなのはモニカには関係なく、ドミニクの事情を聞いてますます怒りを募らせる。


「平民相手に遊び、婚外子を作ったなんて嘘に騙された馬鹿な男が私の婚約者ですって!?ふざけるんじゃないわよ!」


 部屋で悪態をつくも、モニカ以外には誰もその部屋にいない。

 専属侍女はいなくなり、一人で叫んでも誰も見に来ない。もはやすっかり腫物扱いだ。それがさらにモニカを苛立たせる。


 そして、引きずられるようにモニカはドミニクの住む屋敷へと連れて行かされた。

 部屋の貧相さに文句を言っても、この男は何もしてくれない。


(くそっ、こんなところで私は終わらないわ!)


 何としても公爵家の令嬢として、返り咲いて見せる。

 そう決意を固めたところに、ドミニクから思わぬ招待状の知らせを聞いた。


「ロイ様の婚約のお披露目会?」


 それを聞き、モニカは天から差し伸べられる神の救いの御手を見つけたかのように、喜びに沸いた。


(そうだわ、ロイ様なら私の窮状を知ってなんとかしてくれるはず!あの方は私に何度も求婚していたのだから、こんな形で婚約解消になったことを悔いているはずだわ。誰と婚約したのかは知らないけど、私以上にロイ様の婚約者にふさわしい女性はいないもの。お披露目会でロイ様に頼みこめばきっと…!)


 モニカはほくそ笑み、ドミニクにお披露目会用のドレスを頼んだ。

 さすがに王弟殿下のお披露目会とあれば作ってくれるようで、ロイを誘う色気たっぷりなドレスを作ろう。


(ロイ様とは結婚したくないけど、背に腹は代えられないわ。そうよ、結婚したとしても、ロイ様には外で女性を作ってもらえばいいんだわ。そして私はまた美少年との麗らかな日々を楽しむの。ふふ、はやくお披露目会にならないかしら)


 名案が浮かんだとモニカはほくそ笑みながら、その日を待った。

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