42.もしかしたら最後になるかもしれない眠り
帰宅すると家の前に人影があった。
ぼくはその人影がそこにあることに深く安堵して、声をかけた。
「どうしたんだ、こんな遅くに」
呼びかけに幼馴染みが顔を上げる。
見遣ったその顔にいつもとは違う意味合いが含まれていることに気づいて、ぼくは薄く笑いを浮かべる。彼女はぼくに「おかえり」と言ってその後に一呼吸置くと、夏前から付き合っている彼氏と仲直りしたことを告げた。
「要が彼に言ってくれたんでしょ?」
「う、うん、まぁ……」
ぼくは問われても曖昧に頷いてみることしかできなかった。それにここで何か反応を見せたら、溢れ出るものを隠す珍奇な笑顔のオンパレードになってしまいそうだった。
「じゃ、明日の誕生日は彼と?」
「……うん」
その上なんだか余計なことまで訊いてしまって、更にいらないダメージを受けてしまう。でもこれがぼくの望みだったのかと言えば、そうかもしれなかった。
彼女はそこにいる。
その存在が何者かに脅かされることはもうない。
ぼくにとってそれが何よりだった。
家に戻ると同居人は早々に押し入れに入り、ぴしゃりと襖を閉めてしまった。閉じられてしまえばその気配すらなく、本当にそこにいるのかすら分からなくなる。
けれどこの半年の間、彼女が本当に押し入れの向こうにいるかどうかは常に猜疑心の元にあったのも確かだった。
ぼくはベッドに入り、横になって考える。
ぼくが連れて行かれるのはいつなのかな、と考える。
それは明日なのかな、と考えれば足が竦まないことはないのだけれど、来て然るべきものならそれはそれで受け入れて然るべきものなのだとも思う。
彼女が言っていたおぞましいものとはどんなものなのだろう。
できれば可愛い子がいいな、と思うけど、それはないだろう。
でもできればぼくを罵ってくれるようなものならいいな、とか考えながら、ぼくは最後になるかもしれない眠りにつく。
〈了〉




