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地獄へ道づれ  作者: 長谷川昏
4.田舎の祖母に会いに行く/行ってはいけない場所/地獄は地続きの場所にある
26/31

26.コロッケはこの後おいしくいただきました

 翌日になり、ぼく達の帰る日が来た。

 昨晩色々あった希さんは朝早くに近くの病院で診察を受けたけど、軽い打撲と捻挫ということで数日安静にしていれば腫れも痛みもすぐに治まるとのことだった。


 昨日の夕方から発見されるまで、その間自分の身に一体何が起きたのか、希さんは何も覚えていなかった。どうしてあの場所にいたのかも、よく分からないと言っていた。肌身離さず持っていたカメラを確認してみたところ、あの山の辺りで撮ったらしき幾枚かの写真が残されていた。足取りが分かるかもと写真を見てみたけれど、どれも真っ暗な闇しか写し取られておらず、それらを撮影した記憶も彼女にはなかった。


 希さんの所にぼくと時雨を案内してくれたあの存在のことは、誰にも言わなかった。祖母に言えばきっと信じてくれるとは思ったけれど、なんだか言わない方がいい気もして結局黙っていた。それは時雨も同じなようだった。


「またいつでもここに来ていいがよ。待っとるよ」

 祖母はそう言って、あと数日留まるという希さんと共にぼく達を見送った。

 祖母の背中にはまだ寂しさが残っていた。でもそれはぼくも同じで、他のみんなも同じで、それと同居しながら皆日々を過ごしている。


「久しぶりの里帰りは楽しかったか?」

「うん、時雨は?」

「もちろん楽しかったさ」


 再びバスに揺られ、帰りの列車に乗るために駅に向かったけれど少し時間に余裕があったので、ぼくと時雨は最後の観光をしに、この辺りでは有名だという大仏を見に行った。

 公園とかじゃなく、町の住宅地に突如現れるそのこぢんまりとした大仏は、この地に住む人達を見守るように鎮座していた。焚いた線香の香りが漂う中、広場のベンチに並んで座って、ぼく達は結構イケメンな大仏様を遠目から眺めていた。

 晴れた空はのどかで、いつも見ている空とは違う。帰りたくないような気持ちが少しあるけれど、ぼくは多分戻ると思う。


「この辺りはコロッケが有名だそうだ。ファストフード感覚で食べられる」

 隣で観光案内のパンフレットを読み込んでいた時雨が告げる。また食べ物の話? とか思うけれど道行く人達が食べているのを見るとおいしそうだったし、時雨は食を通じてこちらとの接点を持とうとしているのかもと、ふと思って「じゃ、後で食べようか」と返した。


「要、見てみろ。どうやらあの下に入れるようだ」

 時雨が示す方を見ると、大仏の台座に入り口がある。早速向かってみると、台座の内部は人が入れる回廊になっていた。壁には様々なものを題材した仏教画が掲げられていて、所々に仏像も置かれてある。随分古びたそれらにはよく分からないけど味があり、回廊を順に巡りながらぼくは思わず見入っていた。


 絵には地獄を題材にしたものもあった。

 彩りはとても鮮やかだけれど描かれているものはお馴染みの血の池地獄だったりして、少々グロい。でもぼくは目を離せずに、隣で同じように眺めていた時雨に声をかけた。


「ねぇ、()()()()()()()()?」

「知らないな。私は行ったことがない」

「そっか……」

 問いに実はなかったけれど、答えに特段期待していた訳でもない。けれど続く声が届いた。

「だがこれは、なんだか地続きだな」

「うん、そうだね……そう見えるね」


 ()()はこことは地続き。

 その意見にぼくも同意して、そう言葉を返した。


 名残惜しく絵を眺めていると、傍に同じように絵を見上げている五才くらいの男の子とそのお祖母ちゃんと思しき老女がいた。

 地獄絵を目にした男の子は隣の祖母の手をぎゅっと握り、怯えた様子で寄り添った。


「おばあちゃん、これ怖い……」

「怖いか。でも悪いことばっかしとるとここに行くがやぜ」

 怯える孫に老女は慰めるどころか、笑顔でそんな言葉を返す。

 その光景を見ていた時雨が微かな笑みを浮かべた。


「トラウマ確定だな」

「だね」

 絵を見てもぼくはトラウマにはならないけれど、それが地続きで存在することを朧気ながら実感する。

 ぼくは静かに頷くと、黒い服を着た少女に笑い返した。

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