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地獄へ道づれ  作者: 長谷川昏
3.何の因果か遊園地ダブルデート/中学の同級生、曽田さん(優しい)とその妹(クソガキ)/暗がりで地面を掘る男
19/31

19.曽田さん

 その次の日、ぼくは曽田さんの家に三度目となる訪問をしていた。

 挨拶をして早速純菜の部屋の前に向かったけど、声をかけても扉は開けてもらえなかった。昨日来なかったことは曽田さんから伝えられていたと思うけれど、なぜか彼女はむくれていた。


「要君は私のことなんて、どーでもいいんでしょ?」

「どうでもいいなんて思ってないよ」

「絶対思ってるよ、だって口だけならどうとでも言えるもん。みんな嘘つきだしみんなバカ。今日は絶っ対、要君には会わないんだから!」


 その後しばらく粘ってみたけれど結局扉は隙間も開けてもらえなかった。一旦諦めてリビングに戻ると、曽田さんが申し訳なさそうな顔で待っていた。


「ごめんね、御蔵島君」

「ううん」

 ぼくは首を横に振って、その意を伝える。曽田さんにはこの頃謝られてばかりいる。なるべく早くこの件をどうにかしなければ、曽田さんの精神衛生上にもよくないように感じた。でもこればっかりはぼくが一人で空回りしても、どうにもならない。

 曽田さんに誘われてリビングでお茶をご馳走になる。正面に座った曽田さんはまだ困った顔をしていたけれど、少し表情を変えてぼくに話しかけた。


「……御蔵島君、あのね、純菜、怒ってたように見えたと思うけど本当は違うと思う」

「え?」

「昨日御蔵島君が来ないことは伝えてあったんだけど、純菜はちょっと待ってたみたい。純菜なりにカフェでのことを気にしてたみたいで、多分謝りたかったんだと思う」

「……そうなんだ」

「それにね、少しだけど純菜の様子が変わってきてる気がする。純菜も本当はもっと歩み寄りたいと思ってるんだろうけど、素直にそう言えない性格だからいつもそうじゃないことばかり口にしちゃうんだよね……損な性格だなって……」


 曽田さんの妹に対する見解をぼくは黙って聞いていた。ぼくは人に言えないことは口にしないだけで、そうじゃないことは口にしたりはしないから、その気持ちは分からなかった。だけど分からないからと言って切り捨てる気には無論ならなかった。


「御蔵島君、私、反省してる」

「えっ? 何を……」

「御蔵島君にこんなお願いをしてしまったこと。そんなに口を利いたこともなかったのに急にこんな頼みごとなんかして、どうしてあの時あんなお願いができたんだろう……図々しいってあの時も自分で言ったけど、本当に私って図々しい……」

 急な曽田さんの悔恨にぼくはちょっと困ってしまった。頼まれたこと自体は別に構わなかったし、やりながら困惑もしているけれど、最初のきっかけを否定されるほどでもなかった。


「あの、曽田さん……」

「ごめんね……今更言われても御蔵島君が困るだけだものね。私って、どうしてこうなのかな。こんなことを言っても困らせるだけなのに……」

 続けてそう告げられ、どう返せばいいか分からなくて困惑を通り越して少し面倒だなと思ってしまう。けれど複雑怪奇そうな彼女の感情の動きを体感することは、いつもぼくの周りにいる人達からは得られない感じではあるから新鮮だなぁとも思ってしまう。


 曽田さんはうつむいたまま黙り込んでしまった。なんだかんだ言いながらも普段体感することのないこの雰囲気に呑まれてしまったぼくは、妙な感情でどぎまぎする。でもだからとこの隙につけ込んで彼女をどうこうしようとか、どうこうなるとか、どうこうなるかも? とかはとても考えられなかった。けれど現状をどうにかしなければと思いつつも、慣れないどぎまぎ度はやはり上昇した。


「御蔵島君!」

「は、はい!」

 些か邪な考えで頭の中を埋めていると、急に立ち上がって距離を詰めた曽田さんがぼくの手を握った。

「私、とっても感謝してる、御蔵島君に。それに私、御蔵島君が可奈子のことを……」

 そこまで言うと曽田さんは言葉を止めて、下を向いた。


 曽田さんの手は柔らかくて小さかった。

 彼女が言い淀んだ言葉のその先を聞きたいような、聞きたくないような、でもどちらにしても少し身が震えるようなそんな感覚を、彼女の手の感触と一緒に味わう。


「ごめんね……」

 けれど曽田さんはまた謝って、ぼくの手をそっと離した。

 離れていく彼女の手を見つめながら、これはなんだろう? とぼくは思う。ときめく場面のような気もするけれど、彼女にただぶんぶんと振り回されているような気分にもなる。でもどちらにしても被害は被っていない気はするからまぁいいかな、と思うことにする。


 その後幾度か声をかけてみたけれど、結局彼女の妹が扉を開けてくれることはなかった。明日また来るからと約束をして、ぼくは家に帰った。

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