◆ツクヨミ編 ~賢者の謁見、最初の駆け引き~
なんと、10月までくるとは。
こんなに付き合ってくださる方は、はたしてどれほどいらっしゃるのか
とても、感謝です_|\○_
獣人の国の賢者ズリが、使節団を率いて王都に到着した、との報せが届いたのは、それから数日後のことだった。
「やっと来たな」
俺は玉座の間で、その一報を静かに聞いた。
やがて、謁見の間の重い扉が開かれ、獣人の一団が姿を現す。
先頭に立つのは、小柄なネズミの獣人。その後ろには、一度顔を合わせたことのある、蛇の獣人ミスラが、護衛として控えている。
彼らは、悲壮感や敵意を一切見せることなく、完璧な作法で俺の前に進み出た。その堂々とした態度は、まるで対等な国家からの使者のようだ。
「お初にお目にかかります、人間の王よ。私は、獣人の国より参りました、ズリと申します。この度は、ご招待を賜り至極光栄に存じます。獣人の国の代表として、陛下にご挨拶に参りました」
その声は、落ち着き払い、知性に満ちている。
俺は、玉座に座ったまま、その小柄な賢者を見下ろした。
(ふむ、さすが賢者というところか。まあ、このくらい見せてもらわねばな)
俺は、ふっと笑みを漏らし、穏やかな声で応えた。
「遠路はるばる、ご苦労だった、ズリ殿。歓迎しよう。それで、我国はどうだった。貴国程ではないだろうが、少しは楽しんで貰えそうか?」
「滅相もございません。陛下の治世がどれほどのものか、よく分かります。国民たちが活き活きとしておりました。獣人の国も見倣いたいものでございます」
「なんと俺を喜ばせてくれるのか。嬉しいことを言ってくれるものだ。おお、ミスラ殿も息災だったか?ズリ殿をよくぞ無事に連れてきてくれた」
「ご無沙汰でございます、陛下。また、お目通り叶いましたこと、心から御礼申し上げます」
「そう固くなるな、2人とも。もっと肩の力を抜け」
一度、溜めを作る。
「さて、ズリ殿。獣人の国の使者として来られたのは間違いあるまいが、獣王ライ殿はご健勝か?そして、此度の目的を正しく理解出来ているのかな?」
ズリの肩が、ピクリと動いた。
ミスラの顔色が微かに変わる。
(分かりやすいな、これが獣人の国の賢者様と護衛なのだな)
「おっと、すまんすまん。ズリ殿の行動の把握など、獣王ライ殿にとっては、当然のことだったな。なあ、ミスラ殿。間違いなかったな?」
「…」
賢者ズリからも、ミスラからも、返答がない。無言のままだ。
「さて、それでは本題に入ろうか、ズリ殿」
「…はっ。こ、此度私たちは陛下のために、我が国からの『手土産』を持参いたしました」
「手土産か、獣王ライ殿も嬉しいサプライズを用意してくれるものだ。そういうことには、疎い王だと思ったのだがな。余程忠臣に恵まれているとみえる。いや、さすが賢者ズリ殿だ」
(くっ、やはり鋭い。こちらがライ陛下に真の目的をお知らせしていないことを理解なさって、敢えてライ陛下を持ち上げてくるとは。これでは、準備した手土産を差し出しにくくなる)
「恐れながら、金銀財宝では、陛下の心を動かせなと心得えまして、我らがもたらした手土産…」
「いやいや、俺は金銀財宝も好きだがな、まあいい。それで、それよりも価値があるものとは、なんであろうな。心躍る」
思わず、ズリの言葉を遮ってしまった。
が、思ってもみない言葉だったようだ。
賢者ズリの顔に一筋の焦が覗く。
「おお、すまん。話の腰を折ってしまったな。それで、続きはなんだったかな?」
「…はっ。我らがもたらした手土産、それは、我ら獣人族そのもの。…すなわち、**『軍事力』**にございます」
ズリはそこで一度言葉を切ると、その賢者の瞳で、俺を真っ直ぐに見据えた。
「陛下、我ら獣人族を貴方様の『剣』として、お使いいただきたい。我らの武を、貴方様の知で、導いて頂きたいのでございます。さすれば、我らは貴方様にとって、最も役に立つ最強の『駒』となり得ましょう」
賢者ズリが、一夜にして考え出した、獣人族が生き残るための、唯一にして、最後の策を提示した。
「なるほど、軍事力か。実は俺はこう見えて平和主義でな、軍事力にはあまり興味はないのだが…」
賢者ズリの冷や汗が、更に流れる。
「まあいい。それなら使ってやろう。だが貰うばかりではなあ。おおそうだ、では、獣人の国も面倒を見てやろうではないか。そういう事で、どうだ?」
一呼吸おいて続ける。
「獣人の国、獣王ライ殿から1番信頼されている、賢者ズリ殿?」
俺は、告げる。
「ところでなあ、俺は口裏を合わせてやった方がいいのではないか?本国に戻ってもそのまま報告できまい。下手をすれば、首がなくなるだろう。うまく、国交樹立できた体で合わせた方が良いのだろうなあ。俺も優秀なズリ殿は惜しいしな。賢者ズリ殿、表向きは獣王ライに仕え、裏で俺に忠誠を誓うなら、それくらいの役はこなしてやるが、どうだ?」
(やはり、獣人の国の私の立ち位置、此度の出立の裏まで読まれているか)
「…、陛下の御心のままに」
ズリとミスラが揃って俺に忠誠を誓うのだった。




