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三柱ゲーム  作者: さらん


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◆スサノオ編 ~賢者の旅路、最後の策~

獣王城を、割れんばかりの歓声が包んでいた。

民衆は、国の未来を背負い、人間の国へと旅立つ賢者ズリと諜報部隊長ミスラの姿に、熱い声援を送っている。

玉座から降り立った獣王ライもまた、高らかに叫んだ。


「ズリよ!ミスラよ!存分に我ら獣人族の威光を示してくるがよい!吉報を待っておるぞ!」


その言葉に、民衆の熱気は最高潮に達する。

だが、その歓声を一身に受けながら、ズリの心は氷のように冷え切っていた。


(吉報、か…)

ズリは、熱狂する民の顔を一人一人見渡す。彼らの純粋な希望が、今は刃のように心を抉る。彼らは知らないのだ。自分たちが、交渉の席につくのではなく、怪物の食卓に、自らその身を差し出しに行くのだということを。


隣に立つミスラの表情も、硬い。彼女もまた、同じ絶望を共有している。

二人は、誰にも気づかれぬよう、一瞬だけ視線を交わした。それだけで、十分だった。


数日後、人間の国へと向かう道中。

夜営の焚火の光だけが、二人の顔を照らしていた。護衛たちが眠りについたのを確認し、ミスラが静かに口を開く。


「ズリ様…。かの王は、我々の想像を遥かに超えております。交渉の余地など…」

「分かっておる」


ズリは、ミスラの言葉を遮ると、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。それは、獣人族の国の詳細な地図だった。


「ミスラよ。お主の報告で、全てを悟った。かの王は、暴力だけの王ではない。盤上の駒の動きを読み、その全てを支配する『プレイヤー』だ。ならば、我らが『駒』として、戦いの盤上に上がる前に勝敗は決しておる」


ズリは、地図の上に、震える指で一本の線を引く。


「我らがライ陛下のように、かの王に『戦い』を挑んだとしよう。かの王とエルフの前に、…我らは滅びる。それだけだ」

「……。」

「だが、かの王は、我らをすぐには滅ぼさなかった。エルフにも、獣人にも、選択肢を与えた。なぜだと思う?」


ズリは、自問自答するように続ける。


「かの王は、退屈しておるのだ。圧倒的な力を持つが故の、絶対的な孤独と退屈。かの王が求めているのは、滅びゆく敵の断末魔ではない。己の盤上で、より巧みに、より面白く動く『駒』なのだ」


ズリの瞳に、恐ろしいほどの覚悟の光が宿る。


「ならば、我らが生き残る道は一つ。戦うのではない。…かの王に、我らという駒の『価値』を認めさせるのだ」

「価値、でございますか…?」

「そうだ。我ら獣人族は、ただ滅ぼすには惜しい、と。エルフと同じように、生かしておいた方が、より面白くなる、と。そう思わせるのだ。そのために私はかの王に、『手土産』を準備した」


そう言うと、ズリは持っていた地図を、静かに焚火の中へと投じた。炎は、一瞬で国の形を飲み込み、灰に変える。


「手土産…とは、一体…?」


ミスラの問いに、賢者ズリは、静かに、そして不気味なほど穏やかな笑みを浮かべた。


「――この、私自身だ」


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