◆ツクヨミ編 ~王の思案、静かなる盤上~
深夜、王城の執務室。
俺は一人、机に広げた広大な地図を眺めながら、こめかみを指で軽く揉んでいた。傍らには、相棒ともいえるゴーレム一号が静かに控えている。
「やれやれ…」
思わず、長いため息が漏れる。
「これで、エルフの件はひとまず落ち着いたか。カイとソラも、無事に国へ向かっているようだしな。…本当に、面倒なことだ」
俺の独り言に、ゴーレム一号が微かにカメラアイを動かした気がした。
「ゴウダも『分かりやすい監視役』をうまくやってくれているようだ。その裏で、エルフの間者たちが必死に情報を集めているようだが…まあ、好きにさせておけばいい。彼らが自国の安寧を信じるなら、それでいい。俺は、俺が守るべき民衆の生活を豊かにするだけだ、エルフも含めてな。その位の覚悟がなければ…」
敵を滅ぼしたいわけではない。ただ、この世界に来てしまった責任として、民が平和に暮らせる基盤を作りたいだけだ。
俺の視線が、地図の上でゆっくりとこちらへ向かってくる、獣人の駒へと移る。
「さて、と…。次はこちらの番か。獣人の賢者ズリが自らやってくる。ミスラの様子から察するに、相当な切れ者のようだがな。一体、どんな顔をして俺の前に現れるのか」
俺は玉座から立ち上がると、窓辺に寄り、静まり返った自国の夜景を見下ろした。活気が戻りつつある街の、遠い灯りが優しい。
(守るべきものが増えるのは、厄介だな)
そんなことを思いながら、俺は静かに振り返り、ゴーレム一号に命じた。
「一号、城代に伝えろ。『獣人の国より、我が国にとって最も大切な客人がお見えになる。非礼のないよう、最高の礼をもって丁重にお迎えする準備を』と」
俺はそこで少し間を置くと、ふっと、柔らかい笑みを浮かべた。
「――ああ、それと。宴の準備もだ。最高の酒と、見たこともないようなご馳走を用意させろ。最高の客人を迎えるんだ。礼を尽くさなければ、こちらの格が下がってしまうだろう?」




