◆アマテラス編 ~王の慈悲、そして最後の枷~
翌日。
カイ、ソラ、そしてリーフの三人は、再び、あの恐るべき王の、謁見の間へと、通された。
昨日の、絶望に打ちひしがれた表情はない。そこにあるのは、彼らの向かう先にある、民のための道を、受け入れた者の、静かな、しかし、揺るぎない覚悟だった。
三人は、玉座に座る俺の前に、静かに、そして、深く、膝をつく。
「…ほう。昨日の、死人のような顔とは、違うな。どうやら、腹は、決まったようだ」
俺の言葉に、カイは、静かに、顔を上げた。
「はい、陛下。我々は、陛下の、寛大なるご提案を、お受けいたしました。お約束通り、これより、我らエルフの国は、陛下の庇護下に入ります。友好の証として、この地に、リーフをはじめとする、我らの同胞を、残す許可を賜りたく」
その言葉に、俺は、頷いた。
「つきましては、陛下。私とソラは、この決定を、本国の民たちに伝え、そして、今後の具体的な友好関係について、話し合うため、一度、国へ戻る許可を、お与え願えませんでしょうか」
それは、あまりにも、真っ当で、理にかなった申し出だ。
しばらく、黙って、彼らの顔を見つめてやる。
俺:「いいだろう。許可する。もともと、その気だったのでな。」
その、あまりにも、あっけない許可に、カイたちは、逆に、息を呑んだ。
もっと、何か、交換条件を出されるのではないか、と。そう、身構えていたからだ。
「国の代表が、いつまでも、不在にしていては、民も不安になる。早く民たちを安心させてやれ。そして、こう伝えることだ。『我々は、慈悲深く、偉大な王の、庇護下に入ることになった。これ以上、安全な場所は、この世界の、どこにもない』、と」
その言葉は、優しさに満ちているようでいて、その実彼らの、完全な支配を、宣言していた。
だが、カイたちは、もう、それに、反論する必要もない。
「…はっ。陛下の、その、寛大なるお言葉、必ずや、我が国の民に、伝えます」
彼らが、安堵と、そして、新たな屈辱を胸に、立ち上がろうとした、その時だった。
「――ああ、そうだ。一つ、言い忘れていた」
俺は、ゆっくりと、付け加える。
「お前たちが、本国へ戻る道中、さぞかし、心細かろう。だから、俺の、最も信頼する家臣を、一人、『護衛』として、付けてやることにした」
「「「……!!」」」
三人の顔が、再び、絶望に染まる。
「早速、お前たちの旅の安全を、保証してくれるだろう。そして、お前たちの国の、素晴らしい文化や、美しい景色を、俺の代わりに、その目に、焼き付けてきてくれるはずだ。…なに、心配するな。ただの、親善大使のようなものだ」
親善大使。
つまり、自分たちの国に、王の「目」が、直接、送り込まれる。
既に里に入り込ませているが、敢えて見せつけてやる。
俺は、大したことでもないというように、手をひらひらと振った。
「さあ、今度こそ、本当に行くがいい。道中、気をつけてな」
もはや、彼らに、選択肢はない。
カイとソラ、そしてリーフは、この、最後の、そして、最も重い「枷」をはめられたまま、ただ、深く、深く、頭を下げることしかできなかった。




