◆アマテラス編 ~敗北の帰路、絶望の作戦会議~
ただ無言で、城下町の宿屋への道を、とぼとぼと歩いている、エルフの後姿。
彼らの周りでは、活気のある街の喧騒が続いているものの、もはや、彼らの耳には届いていない。
彼らの心は、先ほど、あの玉座の間で味わった、絶対的な「恐怖」と「絶望」に、完全に支配されていたからだ。
宿屋の一室に戻り、重い扉を閉めた瞬間。
まるで、張り詰めていた糸が、ぷつりと切れたかのように、賢者リーフが、その場で呟く。
「…やられた。完全なる、敗北…」
その声は、もはや、賢者の威厳など、かけらも感じさせない。
ソラは、そんな彼に、声を掛ける。
「しっかりして、リーフ!まだ、終わったわけでは…!」
「…いや、ソラ。リーフの言う通りだ」
カイの声は、驚くほど、静かだった。
だが、その静けさこそが、彼の、深い、深い絶望を、物語っていた。
「我々は、完全に、負けたんだ。あの王に、チェスの盤上で、赤子の手をひねるように、弄ばれ、そして、完膚なきまでに、打ちのめされた」
彼は、窓の外に広がる、活気のある街並みを見つめた。
あの中に、あの「怪物」がいる。
自分たちの、全ての思考を、全ての策を、そして、全ての希望を、いとも容易く、踏み潰してみせた、恐るべき王が。
「でも、カイ…!私たちは、まだ、何も失ってはいないわ!命も、同胞も、そして、国も…!」
「そうだな。物理的には、何も失っていない。だが、我々は、それ以上に大切なものを、失ったんだ」
カイは、ゆっくりと、振り返った。
その顔には、悔しさでも、怒りでもない、ただ、空虚な、諦めの笑みが浮かんでいた。
カイ:「――我々は、このゲームの、『プレイヤー』でいることを、完全に、諦めさせられたんだよ」
その一言に、ソラも、リーフも、息を呑んだ。
そうだ。あの王がしたことは、暴力でも、脅迫でもない。
ただ、圧倒的なまでの、力の差、情報の差、そして、格の違いを見せつけた。
それだけで、彼らの心から、「戦う」という選択肢そのものを、静かに、そして、完璧に打ち砕いた。
「…もう、ロラン殿の策も、我々の誠意も、何もかもが、通用しない。我々にできることは、ただ一つ。あの王の、その掌の上で、彼が望む通りに、踊り続けることだけだ」
若きリーダーの、あまりにも早すぎる、そして、あまりにも完璧な、敗北宣言。
だが、ソラはそれでも彼らに励みを渡す。
「そうなのかもしれない…。全てカイの言う通りかも。でも、私たちは生きている。そして、エルフの民の、安寧すら、あの王は保証してくれた。それが、本音かは確かに断言できないわ。でも、この街の活気を見て!!」
確かに、ドワーフ王国のころよりも、国民の生活は活気に溢れ、顔は明るい。
「少なくとも、この国の民は幸せそうだわ。私たちエルフも、この幸せそうな民の仲間になれるのよ。私たちにとって、1番大切なことってなに?私たちが、プレイヤーで居続けること?
そうじゃないわよね。私たち、エルフが幸せになることでしょ?」
はっとする、カイとリーフ。
「だから、この選択は、間違いじゃない。間違ってなんていないのよ。私たちが、勝つとか負けるとか、そんなことは、どうでもいいのよ!!」
カイと、リーフの顔色が、変わる。とても明るく。
彼らは、絶望の中に残っていた、僅かな光を確かにその手に掴んだのだった。




