◆ツクヨミ編 ~盤上の駒、王の支配~
謁見の間は、異様な沈黙に包まれている。
カイとソラ、そして賢者リーフは、その場で立ち尽くすことしかできないようだ。
天井にいるという「蛇」。
そして、その蛇を「迎えに行った」という、王の言葉。
彼らの頭の中では、必死に、しかし、全く答えの出ない、思考が渦巻いている様を、眺めつつ目的の獣人を待つ。
謁見の間の重い扉が、再び、ゆっくりと開かれ、数名の家臣たちが、1人の女性を引き連れて入室してくる。
そのしなやかな身体の動き、そして、その鋭い瞳に、エルフの三人の、息を呑む気配が伝わってくる。
なぜ、この場に獣人が。
なぜ、兵士たちに連れられて来たのか。
ミスラは、謁見の間の中央まで進み出ると、俺の前に、静かに、そして、深く、膝をついた。
その瞳には、恐怖も、絶望も、そして、諦めもない。ただ、空虚な、何も映さない瞳が、床の一点だけを、じっと見つめている。
(さすがは、諜報部隊長。肝が座っている。それに、思ったより美人だな)
俺は、その完璧なポーカーフェイスに、その美貌に、内心で称賛を送った。
俺は、玉座から、ゆっくりと立ち上がった。
そして、カイたちエルフの方へと、視線を向ける。
「さて、と。我が友人たる、エルフの皆さん。あなた方に、改めて紹介しよう」
俺は、床に膝をつくミスラを、まるで、手に入れたばかりの、自慢の駒でも紹介するかのように、手のひらで、軽く示した。
「彼女が、お前たちが、この国に来てかの、その行動の一部始終を、ずっと、見守っていてくれた**『天井裏の蛇さん』**の、本体だ」
世間話でもするかのように、明かす一言に、カイ、ソラ、リーフの三人は、またもや、言葉を失うしかなかった。
自分たちの行動は、この王だけでなく、獣人族にまで、完全に筒抜けだったのか。
俺は、予想通りの反応を見せるエルフたちを一瞥し、そして、ゆっくりとミスラへと、視線を
向ける。
「ミスラ殿にも、念の為自己紹介をしておこう。今更かもしれないが。俺がお前たちの最大の警戒相手、人間の王だ。なに、これから長い付き合いになるだろう。そんなに緊張することはなくなる。」
俺は一度言葉を切る。
「そしてこちらだがな、お前たちが見守ってきたエルフの皆さんたちだ。どうかな?実際に観察対象と間近で直接会った感想は。まだ、警戒が必要な種族に見えるか?」
ミスラは、諜報部隊長らしく、反応を見せることはない。
エルフ、獣人、そして、俺。
三つの国の、三人の代表と三国目のその代理人が、今、この謁見の間に、初めて、顔を揃えた。
俺は、これから始まる、本当の「ゲーム」を前に、愉悦の笑みを、口元に浮かべるのだった。




