◆ツクヨミ編 ~邂逅と絶望~
賢者リーフとの二度目の会談から、数日が経った。
玉座の間で、いつものように家臣からの報告を受けていると、一人の衛兵が、訪問者の報告に駆け込んできた。
「陛下!申し上げます!城門の前に、賢者リーフ殿が、五名の旅人と共に、陛下への謁見を求めておられます!」
(…ほう。やっと来たか。長命種は、のんびりなことだ)
「よい。通せ」
やがて、謁見の間の重い扉が、ゆっくりと開かれる。
そこに現れたのは、賢者リーフと、彼の後ろに控える、五人のエルフ。
質素な旅装束に身を包み、フードを目深に被ってはいるが、その隠しきれない気品と、森の民特有の澄んだ雰囲気は、俺の目に、包み隠さず真実を告げていた。
(…リーダー格は、あの前の二人。それ以外は、護衛か)
俺の視線は、五人の中でも、特に強い意志の光を目に宿した、若い男女の二人組へと向けられた。
リーフが、俺の前に進み出て、深く膝をつく。
「陛下。本日は、私の古い友人たちが、陛下の高徳を慕い、ぜひ一度、お目通りを願いたいと申しておりまして…」
「おお、ご友人か。リーフ殿の大切なご友人であれば、歓迎しよう。…おい、そこの者、リーフ殿の大切なご友人だ。不便をかけぬよう、計らってやれ」
俺は、リーフの言葉を遮り、家臣に命じる。そして、旅の一行へと、穏やかに向き直った。
「さて、待たせたな、ご友人。名を聞こうか?」
「お初にお目にかかります、王よ。我らは、遥か東の森より、薬草の研究のために旅をしている者です。この国の森には、珍しい薬草が多く生えると聞き…」
(ふーん、なるほど。これがリーダーか。いい目をしているが、若いな。いや?俺より遥かに年上か。実年齢じゃない、経験が、だ)
「名を聞いたのだが、スルーか。まあいい。それで?今回の旅の成果はどうだったかな?」
「は?成果…ですか?」
「今、そちらが言ったのだろう。『珍しい薬草』を採りに来た、と。なんだ?目的の薬草は、少しやつれていたか?」
「…っ」
若者の顔が、こわばる。
俺は、それを見て、わざとらしくリーフに声をかけた。
「リーフ殿。ちゃんと面倒を見てやることだ。なにやら、あなたのご友人は、顔色が悪いようだぞ?」
「だ、大丈夫でございます、陛下。ご配慮賜り、誠にありがとう存じます…!」
「おお、ならばよかった。俺も安心できるというものだ。…ところで、旅をされているそうだが、何か面白い話でも聞かせてはくれないか?」
「で、では、私が代表して旅での思い出など…」
それからしばらく、俺は、彼らの、当たり障りのない、退屈な旅の話を、ただ黙って聞いていた。
ひとしきり話が終わったのを見計らって、俺は、ゆっくりと口を開いた。
「――でだ。いつまで、この茶番に付き合えばいいのかな?」
その一言で、謁見の間の空気が、再び凍りつく。
「そろそろ、飽きてきたのだがなあ、カイ殿。そして、ソラ殿、かな?」
俺は、二人の名を、はっきりと呼んだ。
「なあ、リーフ殿。本国から、わざわざリーダー自ら来てくれて、さぞかし安心できたことだろう。…いや、逆に心配か?俺に何をされるか、分かったもんじゃない、ってか。はっ、本当に心配性だな、お前たちは」
もはや、誰も言葉を発しない。
カイも、ソラも、リーフも、ただ、顔を蒼白にさせて、俺を見つめている。
俺は、そんな彼らの様子を、心底楽しむと、ふと、誰もいないはずの、天井を仰いだ。
「なあ。お前たちだけだと、話が進まなくて、つまらん」
俺は、天井に向かって、語りかける。
「そこにいる蛇さんも、途中からでいいから、ここに合流しろよ。お前が来るまで、話を進めておくから、早めに来い。…でないと、お前の仲間たちが、いつまで経っても、ハラハラしながら、この茶番を聞いていないといけないだろう?」
全員が、俺につられて、ポカンとした顔で、天井を眺めていた。




