◆アマテラス編 ~リーダーの覚悟、賢者の諦念~
リーフの、魂からの叫び。
その言葉の重みに、カイとソラも一瞬、息を呑んだ。宿の一室が、凍りついたように静まり返る。
しかし、カイは、その恐怖を振り払うように、静かに、しかし、力強く首を横に振った。
「…分かっている、リーフ。君が、我々の身を案じてくれていることも、その王が、我々の想像を超える存在であることも」
彼は、リーフの目を、まっすぐに見据えた。
「だが、だからこそ、行くんだ」
「カイ様…!?」
カイの声は、どこまでも穏やかだった。だが、その瞳には、どんな言葉でも揺るがすことのできない、王としての、強い意志が宿っていた。
「考えてもみてくれ、リーフ。その『怪物』かもしれない相手の領地で、今、我々の同胞たちが、暮らしている。彼らは、いわば、人質に取られているようなものだ。ならば、その怪物の前に、長である私が行くのは、当然の責務だろう?」
その、あまりにも真っ直ぐで、反論の余地のない「正論」。
リーフは、言葉に詰まった。彼が、どれだけ危険を訴えても、このある意味若いリーダーは、その「責務」という名の鎧を、決して脱ぎはしないだろう。
「私も、同じ気持ちよ、カイ」
ソラは、カイの隣に、そっと寄り添った。
「それにね、リーフ。私たちは、この目で確かめなければならないの。その王が、本当に、対話の余地もない、ただの『怪物』なのかどうかを。もし、そうならなかった時のための、次の一手も、考えなければならないのよ」
カイの「理想」と、ソラの「現実」。
二人の覚悟は、すでに、リーフの想像を遥かに超えていた。
「…これは、もう、決定だ、リーフ。君の忠告には、心から感謝する。だから、我々は行く」
その、揺るぎない言葉に、リーフは、ついに、諦めたように、その肩を落とした。
そして、深く、深く、頭を垂れる。
「…承知、いたしました。そこまでのご覚悟とあらば、もはや、このリーフが申し上げることは、何もございません。ですが、せめて、この私めに、道中の案内と、王への謁見の段取りを、お許し願えませんでしょうか。お二人の盾となることくらいは、この老いぼれにも、できます故」
それは、賢者リーフが、彼らの無謀な決断を受け入れ、そして、自らもまた、その危険な道行きに、命を懸けることを決意した、忠誠の証だった。
カイとソラは、顔を見合わせると、その賢者の、悲壮な覚悟に、静かに、そして、力強く、頷き返すのだった。




