◆ツクヨミ編 ~賢者の報告書~
勅命を下した翌日。
俺は、玉座の間に家臣たちを集め、賢者リーフの到着を待っていた。
やがて、扉が静かに開かれ、リーフが、数冊の羊皮紙の巻物を手に、一人で姿を現した。彼は、玉座の前に進み出ると、恭しく膝をつき、深く頭を下げた。
「…来たか。報告書は、できたようだな」
「はっ。陛下より賜りました勅命、滞りなく。こちらに、まとめさせていただきました」
リーフは、二つの巻物を、従者を通して俺に差し出した。俺は、まず一つ目の巻物を手に取り、ゆっくりと広げる。
(…ほう。これは、大したものだ)
森の薬草の分布図から、生息する獣の行動パターン、食べられる木の実の収穫時期まで、非常に詳細な情報が、美しい文字でびっしりと書き込まれていた。地図の正確さ、記述の緻密さ、どれを取っても非の打ちどころがない。これさえあれば、この国の食料事情は、大きく改善される。
「…見事だ。この報告、とてもよく出来ている。苦労しただろう。よくやってくれた」
そして、二つ目の巻物に手を伸ばす。
「そちらは、我が『故郷』についての、ささやかな記録にございます」
俺は、巻物を広げ見る。
『かつて我らの故郷は、女神の愛に満ち、穏やかな時を刻んでいた。しかし、邪悪な思想を持つ急進派が台頭し、古き良き伝統は失われ、我らは涙をのんで故郷を後にした…』
(…なるほど、予想通りだ。どうせこの程度のものしか作れんと思っていたがしかし、期待を裏切らんな。所詮エルフもこの程度か。こんなもので、俺の目を誤魔化せると思っているとはな。これなら、警戒する必要などないな)
「なるほど、お前たちも苦労してきたのだな。よし、これからもこの国で安心して暮らすがいい。そうだな、ところでドワーフ達とはどんな付き合いをしていた?」
俺は内容に満足したフリをして、エルフの安住を約束した。そして、ドワーフとの付き合いに話題を切り替える。
「…っ!!」
唐突にドワーフとのことに話を振られたリーフに、瞬間緊張が走る気配が筒抜けだ。
「どうした?ドワーフとは懇意にお付き合いとやらをしていたのだろう?俺たちとも、同じように付き合おうと、そう言いたいだけなのだがな。それは無理だ、とでも言いたいのかな?」




