◆ツクヨミ編~王と賢者の化かし合い~
「…なるほどな。事情は分かった。つまり、厄介払いをされた追放者、というわけか。であれば、なおさら俺の民として生きる道を選ぶほかないだろう。だが、俺は一方的に厄介事を抱え込むつもりはない」
「……。」
「お前たちの『故郷』がどうなっているかは、いずれ詳しく聞かせてもらう。だが、まずは、お前たちがこの国にとって有益な存在であることを示してもらおう。リーフ殿、あなた方に何ができる? この国の民となる対価として、俺に何を差し出せる?」
俺は、ドワーフ王が俺を試したように、今度は俺が、彼らを試す番だと、静かに、しかし有無を言わさぬ口調で問いかけた。リーフの深い瞳が、俺の真意を探るように揺れる。しばらくの沈黙の後、彼はゆっくりと口を開いた。
「…我ら森の民は、争いを好みません。ですが、この森に関する深い知識と、自然の恵みを活かす知恵を持っております。薬草の知識、獣の足跡を読み、その習性を知ること、そして、弓の扱いや隠密行動。これらは、必ずや陛下のお役に立てることと存じます」
それは、いかにもエルフらしい、模範的な回答だった。だが、今の俺には、そんなありきたりの答えは響かない。
「技術や知識か。結構なことだ。だが、それはお前たちが俺の民として認められた後の話だ。俺が聞いているのは、その前段階。俺がお前たちを**『信じるに値する』**と判断するための材料だ。もう一度聞く。お前たちは、何者なのだ?なぜ、故郷を追われなければならなかった?」
俺は、彼の言葉の矛盾を突く。静かに暮らしたいだけの民が、わざわざ別の王が治める土地の、それも人間の国のすぐそばに移り住むだろうか?俺の追及に、リーフは観念したように、一度固く目を閉じた。
「……承知いたしました。全てをお話しいたします。我々は、お察しの通り…故郷を追われた身。ですが、それは国を追われた、というよりは…自ら国を捨てた、と言うべきやもしれません」
「…ほう?」
「我らの故郷では、ある時を境に、急進的な考えが主流となりましてな。古くからの慣習を軽んじ、他種族との過度な交流を推し進める…我々は、その性急な変化に異を唱えたのです。ですが、我らの声は届かず…結果として、エルフの伝統を守るため、我々は故郷を離れることを決意いたしました。我々は、ただ静かに、古来からのエルフの暮らしを守りたかった…それだけでございます」
追放者、ではなく、自ら出てきた亡命者。より同情を誘い、かつ自分たちの高潔さを示す、見事な言い分だ。
俺は内心で舌を巻きながらも、それを表情には出さず、あくまで冷徹な王として言葉を続けた。
「…そうか。理想を抱いて国を出た、と。感心なことだ。だが、理想だけでは腹は膨れんし、国も守れん。お前たちの事情は分かった。ならば、その上で、改めて問おう。お前たちが差し出すべき『対価』は、忠誠だ。そのために、お前たちが持つこの森の知識…薬草、地理、獣についての情報などは、当然差し出せるよな?」
「…それは、承知いたしました。我らの知識が、陛下のお役に立てるのであれば」
「そして、もう一つ」
俺は、リーフの目を真っ直ぐに見据えた。
「お前たちの『故郷』についてもだ。どのような経緯で急進派が主流になったのか、国の主な戦力、文化、そして…彼らが交易を求めているという『ドワーフ』についても、お前たちが知る限りの情報をまとめてもらおう。それが、お前たちがこの国で生きていくための、最初の仕事だ。それが出来るなら、お前たちのことはこの俺が責任をもって守ってやると約束してやろう」
俺は、彼らの「偽装」を信じたフリをしながら、その偽装された物語の細部を報告させる、という実利を取った。彼らが嘘をつくなら、その嘘を元にさらに情報を引き出せばいい。
リーフの表情が、わずかに、しかし確かに強張った。彼らの「偽装」が、新たな義務を生み出した瞬間だった。
だが、彼は王である俺の命令に逆らうことはできない。
「…御意。陛下の、寛大なるご処置に感謝いたします」
深く頭を垂れるその賢者の内心を推し量りながら、俺は不敵な笑みを浮かべるのを、かろうじて堪えるのであった。




