◆ツクヨミ編~王の反撃、始動
温かいシチューで心身ともに満たされ、このダンジョンに入って初めての深い休息を得た俺は、やがてその場に立ち上がった。疲労と空腹は癒えたが、それ以上に、ドワーフ王の悪趣味な手のひらの上で踊らされ続けたことへの、冷静な怒りと、何としても出し抜いてやるという強い意志が込み上げてきていた。
「よし、行くぞ」
俺は静かに告げ、視線を部屋の奥へと向けた。家臣たちは、休息によって活力を取り戻した俺の、いつもとは違う鋭い眼差しに、ピクリと反応した。
「ゴーレム一号、お前が先頭だ。だが、これまでの部屋で確認した罠の場所を、逐一報告しろ。そして、決して深入りするな。僅かでも怪しいと感じたら、すぐに引き返すんだ。」
ゴーレム一号は、その平坦な声で「承知いたしました」と応じた。
「そして、お前たち」
「俺」は家臣たちをゆっくりと見渡した。彼らは姿勢を正し、真剣な面持ちで「俺」の言葉を待っている。
「これからは、俺が指示するまで、決して余計なことをするな。不用意に触れるな、飛び出すな。…わかったな」
家臣たちは、これまでの経験から俺がどれほどドワーフ王の罠に苦しめられてきたかを知っている。
彼らは一斉に「はっ!」と、かつてないほど真剣な返事を返した。
俺は心の中でニヤリと笑った。ドワーフ王は、きっと俺が警戒し、慎重になることは予測しているだろう。
だが、俺は単に警戒するだけではない。ドワーフ王が「俺」の行動を読み切ろうとするその深謀遠慮を、逆手に取ってやる。
罠が仕掛けられていなければ、あえて罠があるかのように動く。仕掛けられていれば、あえて無視して進むふりをする。ドワーフ王の裏の裏をかくには、まず、相手の思考を読み、その思考の予測の範囲外に出る必要がある。
俺は、自身の奥底から湧き上がる策士としての冷静な顔を自覚していた。ドワーフ王の思惑に振り回されるのは、もう終わりだ。ここからは、俺が主導権を握る番だ。
通路の奥へと歩みを進める俺の背中には、以前のような疲弊した様子はなかった。代わりに、新たな決意と、内に秘めた反撃の狼煙が燃え上がっているかのようだった。
ドワーフ王の悪趣味なゲームは、ここから本格的な頭脳戦へとその様相を変え始めるだろう。




