◆アマテラス編~未知への旅立ち~
数週間後。
エルフの村の東門には、朝日に照らされた十数名の一団が整列していた。
カイとソラを筆頭に、屈強な戦士、知識豊かな学者、そして熟練の狩人といった、各分野から選りすぐられた者たちだ。彼らが、この国の未来を賭けた最初の外交使節団だった。
多くの同胞たちが見送りに集まっていた。議会での対立が嘘のように、今は誰もが、旅立つ者たちの無事を祈っている。その眼差しは、不安と、そして未来への期待が入り混じっていた。
使節団の前に、ロランをはじめとする長老たちが進み出る。
「カイ殿、ソラ殿。そして、勇気ある者たちよ」
ロランは、厳かな声で語りかけた。
「道中の安全を、我らもここから祈っている。だが、忘れないでほしい。交渉が決裂しても、決して恥ではない。生きて帰ることこそが、最も重要な任務であると」
それは、反対派の長であったロランからの、最大限のはなむけの言葉だった。
カイは、深く頷いた。
「お言葉、肝に銘じます。我々は、我々の誠意を伝えに行くだけです」
そして、集まった民衆に向き直る。
「我々は、未来への橋を架けに行ってくる。我らが留守の間、この村を、我らの故郷を、どうか頼む」
力強いカイの言葉に、民衆は静かに、しかし力強く頷き返した。
ソラは、そんなカイの隣で、集まった一人ひとりの顔を見つめ、優しく微笑んだ。彼女の穏やかな表情は、人々の不安を和らげる不思議な力があった。
やがて、カイは空を見上げ、太陽が昇り切ったのを確認すると、静かに号令をかけた。
「…行こう」
その一言を合図に、使節団は踵を返し、未知の森へと足を踏み出した。
村人たちは、彼らの姿が見えなくなるまで、いつまでも、いつまでも手を振り続けていた。
100年の静寂を破り、エルフの国は、外の世界へと歩み始める。
険しい山々を越えた先にあるという、伝説のドワーフ王国。
そこで彼らを待つものが、友好か、それとも敵意か。
今はまだ、誰にも分からない。
ただ、カイとソラ、そして仲間たちの心には、未来を切り拓くという確かな決意の炎が灯っていた。




