◆アマテラス編~選ばれし者、エルフの若者~
エルフの集落の一角にある、古木の根元に建てられた長老の家。その質素ながらも落ち着いた佇まいの家へと、一人の若者が呼び出された。
若者の名はカイ。まだ若々しい顔立ちだが、その瞳には知性と好奇心が宿っている。
カイの幼馴染であるソラは、心配そうな表情で長老の家を見つめていた。カイが長老に呼ばれるのは、何か重要な話がある時だと知っているからだ。
家の扉を開け、カイは長老に向かって声をかけた。
「長老様、なにかご用ですか?」
長老は、カイの問いかけに穏やかな声で返答する。
「カイよ、おまえさん、王様になってみんかの?」
カイは一瞬目を丸くしたが、すぐに笑顔で答えた。
「いいですよ。」
長老は、カイの即答に満足そうに頷いた。
「さすがカイだ。即答とはな。」
カイは、少し照れたように笑いながら、問い返す。
「長老の後を継げってことですよね?」
「プークスクス(笑)」
突然、二人の間に割って入ったのは、長老の横に静かに佇んでいた美しい女性だった。その女性は、まるで陽だまりのような温かい笑顔をカイに向けている。
「あの、長老様、その方は……?」
長老は、慌ててカイに女性を紹介した。
「おっと、紹介が先だったの。こちらは天照大御神様、女神様だ。」
……。
(女神様、女神様がなぜここに……)
カイの戸惑いは当たり前だったが、目の前の二人は意に介さず話を続ける。
「今度ねー、私の国を1つ誰かに任せようと思ったのよねぇ。それでぇ、この長老にちょっと相談したら、快くあなたをねぇ、紹介してくれたってわけぇ♡」
横で長老が、ほんの一瞬だけ顔をしかめたような気がした。カイは、長老がこの話に反対なのかもしれないと内心で思った。
「その国は、どの辺にあるのでしょうか?」
カイは、突然の申し出に戸惑いつつも、すぐに状況を理解しようと努めた。その順応性の高さも、彼が選ばれた素質のひとつなのかもしれない。
「だーいじょーぶよー。ちょっと異世界に移動してもらうだけだしぃ。この世界とは全く違うから、この村との衝突とか気にしなくてもいいのよぉ♡」
アマテラスは、まるで近所の店に買い物に行くかのように、さらりと告げた。しかし、その言葉の内容は、カイにとってあまりにも衝撃的だった。
「え、あの、心配の次元が違いすぎるのですが……。」
カイは、思わず言葉を失った。異世界への移動?
それは、故郷や家族、友人たちとの永遠の別れを意味するのではないか?
アマテラスは、カイの戸惑いを全く意に介さず、さらに言葉を重ねる。
「なにも心配することないわ。たかが、誰も知らない世界で国を治めるだけなのよ?」
(どれも『たかが』じゃない気がするのは気の所為ではないはずだ)
カイは、内心でそう叫んだ。彼の心には、不安と疑問が渦巻いていた。
そんなカイの様子を見て、長老は少しばかり同情の色を浮かべながら、しかしどこか他人事のように言った。
「ま、その、カイよ。そういうことだから、精々頑張ってこいよ。」
カイは、長老の言葉にわずかながらも希望を抱きかけ、問いかけた。
「長老、完全に他人事ですよね。そもそも戻ってこられるんですか?」
アマテラスは、その問いに満面の笑みで答えた。しかし、その笑顔は、カイにとってどこか残酷に感じられた。
「戻ってくる必要なんてあるぅ?あなた、王様になるのよ?王様が国を捨てて故郷に戻るはずないわよねー(ニコリ)」
アマテラスの言葉は、カイの最後の希望の光を打ち砕いた。彼は、女神の気まぐれによって、故郷から永遠に引き離され、見知らぬ世界で王となる運命を突きつけられたのだ。




