敵襲!
その言葉が、真っすぐに揺るぎない視線で向かって来る閲呉の、燕尾、気藍すら自分達より上だと言うこの上無い人を眼前で比較、評価するような侮蔑の言葉さえも吹き飛ばし、真っ白な心が見えたのだ。知らずに眼前で涙を零しながら膝を折っていた。何故なら、燕尾、気藍も自分の前で頭を深々と下げているのである。自分達より上なんだぞと言われているのにも関わらず。
閲呉は手を取った。
「備前、有難う。今はとにかく人だ。俺は全体を常に見回している。そして、備前の言動、行動をずっと見て来た。あんたは、才を表に出す事なくとても奥ゆかしく、そして信用たる人物であり、大器だ。俺には分かる」
こうして、閲呉の側近にまた優秀な者が加わった。誰もえこひいき等しない閲呉のど直球過ぎる人心掌握術は、天然のものだが、こんな環境、世界でも受け入れてられているだ。そして、次々と布石を打つこのやり方は、恐らく彼自身の中で何かが感じられるのだろう。事実、予想もしない火山の噴火も起きたが、自分達の住む所が昔噴火した火山の噴火口跡地だと知ったのも、そう言う情報が先にあったものだ。そうでなければ巍然族にとっては、右往左往の状況であっても、黒魔洞をしっかり確保出来ていたし、砦の構築もあったのだ。これが無ければ、黒魔洞制覇前の状況では、上原族の平原に魔物達が押し寄せていただろう。偶然にしては、余りにもそれは閲呉が居てこその先行的行動がもたらしたものだ。やはり、それが人間的な第六感だと言うのだろうか。誰もこの先の事等分かる筈も無いものだが、閲呉もそれを予期してこう言う人材発掘や、訓練、情報収集、研究も含めてやっている訳では無い。だが、人を動かすには、集団をまとめられるのもやはり人なのである。閲呉にはそれがあるように思えるのだった。これは、備前の見解である。閲呉が語っている訳ではない。
室蘭が呼ばれた。副将格と今はなっているが、元々豪将で名高いこの軍団の頭でもある。しかし、人心掌握術や次々と発想の転換と、その記憶力の高さでぐんぐんと頭角を現し、自分とも互角に戦える若い閲呉の登場によって、その座を譲っているのである。
「今日は何か?」
「室蘭殿をここへ呼んだのは、新に自分の側近に、備前を指名したので、紹介と、魔虫とは何かと言う少し発端を掴んだ気がしたんでね」
「ほう・・魔虫の事が?いや、それに備前ならとっくに知っている。耳洞族において、とても知能が高い若者が居て、巍然族や、魔物を退け続けて来たのは備前の力だと聞いている。備前・・お前も我の事は良く知っておるよな?ははは」
顔見知りだったのか、閲呉は思った。