敵襲!
「良く来てくれた。言語を取り戻したのも早かったようだし、こちらの上原族が使う言語の習得も早かったようだな、備前」
「基本的には、大きく変わらなかったし、閲呉大将がずっと地伝達のような信号を送っていた事も理解していた」
「ふふ・・そのお陰で無駄な血を流さずに済んだし、考えて見ればもともと同じ種族であるようにも分かって来た所だ。ただ、魔人を生み出した部分においては、こちらは抜燐師の先祖がとてもやっかいな勤めを果たして来たんじゃないかなと思っていてなあ」
備前の顔色が少し変化した。涼やかなその瞳に少し困惑の様子が見て取れたのだ。
「あ、いや。そんな事等ちっとも干渉もしないし、気にもしてはいない。ただ、今を知る事とその昔の断片であれ、知る事はとても重要だと考える。その中で、八色の笛はとても役に立っているし、ようやく我々も闘いの歴史もあったものの、元はと言えば、耳洞族の住処をどかどかと踏み込んだのが我らだ。そこで反撃されるのは至極当然だ。なのに、こうも寛容に受け入れてくれた事に感謝をしているんだ。つまり、口数の極端に少ない抜燐師も同じく、薬湯の影響と笛の影響で耳が聞こえなくなっている点が同じなんだよ」
「そこまで分かっているのならば、自分をここへ呼んだ理由とは?」
「回りくどいような話をしてしまったな、聞きたかったのは、この魔虫についてだ。巍然族は砂漠地帯に住み、争いも無い民であったと言う。或る日を境にして、突如耳洞族に攻め込んで来たと言うのがどうも合点出来なくてなあ」
「ふむ、閲呉殿はそう言う問答をするのだな?理解はしたが、自分より数代も前の事。それを知る由は無い」
閲呉は頷きながら、
「分からぬ事は聞く。それを基本にしているので、気にしないで欲しい。では、これを見せたいと思って呼んだのだ。これが主なんだ」
少し端正な顔が笑みを浮かべたようで、気があるらしい気藍の頬は少し赤くなった。彼女の中では、王子様の笑顔なんだろうかと言う視線だった。
閲呉が見せると、その前に、自分が見たその姿を絵心もあるのだろう。その辺の燃えた木切れの墨を使い、白い石にその姿を書いていた。
備前は、小さく声を上げた。