敵襲!
「それは、切羽詰まった巍然族の大軍と向か合っている最中、仕方が無いわよ」
「うん、話を戻そう。つまり、抜燐殿は薬湯によって草食の生体を魔物に変化させたと言う事を、俺達は生まれた時から魔物を見て来たし、それが普通の状況だったから気にもしなかった。つまり、巍然族とは、薬湯と言うものによって支配されているとしたらどうなる?」
「薬湯・・つまり、それこそ耳洞族がそれをやって自分達を滅ぼした?矛盾の大きな話だわ」
「いや・・抜燐殿は、薬湯の秘密を代々知ったに過ぎない。その加担をしたのではなく、これって・・飲み水では無いのか?その水の中には俺達が見えないような小さな生き物が居て、それが最後に脳を支配する。寄生虫だと抜燐師は言っていた。思い出して見ろ、俺達は水をそのまま飲む事は無い。必ず沸かして飲んでいる」
「あ・・そこ・・」
燕尾は口を押えたのだった。
つまり巍然族とは元々攻撃的な種族では無く、これもどこまで行っても先が見えないような砂漠地帯に住んで居た。その内に、ここにも火山があって、それが噴火した折に逃げて来た。彼らにとって水はとても貴重であり、豊富にあったここの水を飲んだ。沸かすような習慣は無い。それが魔物へと変化したのでは無いかと言う仮説である。しかし、ここもまた閲呉の仮説は的を射たものであるように燕尾は思ったのである。
燕尾は気藍にこう言った。又物探も呼び、
「抜燐師の元に、非常に小さなものを観察出来る道具があって、それで巍然族の平原にある水を、これは手で触ってはいけない柄杓で掬い、革袋に入れて少量でも良いから採って来て」
「おう・・分かった」
気藍には、
「あの道具こそは、抜燐師の代々伝わるもの。貸してくれないと思うから、こそっと盗って来て」
「ええ?」
盗むと言う行為がこの時代にあったのかどうか。気藍は、その道具を知っていた。この時こう答えた。
「あのね、燕尾。あたいは、その道具自分で真似をして作ったものがあるんだけどね」
「こっちこそ、ええ?だわ、気藍」