敵襲!
「分かったっすけど・・でも、それならとっくに俺達の耳がやられていたのでは?」
「使い方だ。音は一方向に出て行く。それを気藍は知らなかっただけの事だ」
「合点したっす。そこは、良く分かったっす。じゃあ、魔人達は俺達を殺戮する為に生み出された事になる。それなら、御師、あんたは完全な敵になるんすよ?」
閲呉の眼が光った。
「それは、そう思われても仕方は無かろう。だが、あの軍勢を見たであろう?あの数にこちらの劣勢の部隊で勝てると思うか?魔物には魔物を向けるしかないんだ。その為には少しの犠牲も已むを得まいと言うのが我の考えだ」
「むう・・そこまで言われると、犠牲になった者が哀れではあるものの、戦術としては何となく頷ける。戦いの本質とはそう言うものだと俺も少しは分かった所っす」
「閲呉・・納得するの?そこ」
燕尾がやっと口を開いた。
「いや、正直に話してくれたんだと思う。それでなければ、とっくに俺達はあっち側から黒蜘蛛、魔物達によって滅ぼされていたんだよ。そこは皆も良く聞いておいてくれ。御師は、俺達を生かす為にとった策なんだよ、そこは」
無口で殆ど表情を変えない抜燐だが、少し表情が和らぎ、眼から涙が落ちた。
「御師・・恐らくあなたは死ぬまでこの事を話さなかったと思う。なら、山岳民族達に一刻も早く言葉を復活させるよう、今もやっているようっすけど、お願いします。その上で楽理が非常に有効な対抗手段と言う事と、赤魔洞の薬湯はこちらの武器になる。そんな魔人達とは、戦うしかない。俺達は、その笛について、学ぶ必要もありそうだ」
「閲呉・・お前は何を考えている?笛を学ぶだと?」
抜燐の眼が不可解だと言うようなものに変わった。しかし、閲呉は思い付きで言っているように感じても、ずっと先を読める者だと言う事を燕尾は知っている。砦はこちら側がとんでもない攻撃をする事を悟り、しばらくは、あちら側からの攻撃は無かった。その間に、大きく部隊は再編されて、山岳集団もようやく彼らと同調出来るようになって行った。勿論、こちら側としては、何時でも反撃できるぞと言う体制で、と相当広大らしいあちら側の果てすらも見えない地の探索が続いていた。




