敵襲!
「少しでも判断が誤っていたら、全滅だったよね」
「ああ、そうだった。しかしな、燕尾。お前は戦う側では無い。お前が動揺したと言うのは、軍全体にそれが伝わる。だから、お前はどんな場面においても平然とした顔をしていろ。良いな?繰り返すが、そのお前の動揺が軍全体の士気に影響するんだからな」
「は・・い」
燕尾はとても優秀だ。恐らくこの集団を見回しても、燕尾、気藍程の知恵者は居ないだろうし、そこは分かっているのだ。今度は、すぐまた攻め込んで来ないように、砦の周囲を更に下部の平野部にも広げて、限られた軍しか居ないものの、三倍の数を駐留させる事に決定している中で、やはりこの集団の長老格であり、知恵者抜燐を密に呼んでいた閲呉であった。
「何か?前線に呼ばれる理由とは何だ?」
少し憮然とした表情だった。それは、既に軍師訳を燕尾に渡し、そして右腕的存在の気藍も閲呉隊に加えられてしまった。抜燐には納得出来ない事は多々あった。そして、執拗にも自分に対して秘め事は無いかと詰問すら行っているのだ。閲呉に対してかなり不満を持ち、ここで文句の一つも言ってやろうと言う気が満々のように見えた。閲呉もその辺は心得ていて、彼もこの期間に相当周囲も認める程の成長を見せていたし、誰が見てもこの軍が最強であり、閲呉隊がこの主導権を執って然るべき位置にいると思っているのだ。
「まあ、突然組織としての重鎮である抜燐殿をこちらに呼び寄せる等、本来あなたが進めている組織としてのきちんとした指揮系統であるとか、分担であるとか、命令系統であるとかは分かっているんすよ、少しは俺も」
「ふうん・・言葉遣いは実にへりくだっているように聞こえるが、閲呉、お前は実に賢い男だ。戦術などは誰に教わったのでもなく、自分で経験の中で培っていると言う策謀も分かっているし、お前は一度でも聞いたもの、見たものを記憶できるのだろう。その点で言えば、燕尾も気藍もとても高い知恵者ではあるが、お前には及ぶまい。瞬間的な判断を即決で実行出来るお前は、優れた武将であると言う認識を新にしている所だ」
「ふ・・余り持ち上げないで頂きたい。して・・御師さんと呼ばせて頂くが、貴方のその知識とは、この何もない集団の中で並びない。それは、誰から教わって来たんすか?代々と言っても、何時からこの集団・・と言っても、つい最近までばらばらに点在して暮らしていた。この集団が出来たのも本当に最近っすからね。どうも、その辺について、知り得る事をご教授願いたいと呼んだ訳っす」