敵襲!
「勘だ。直観でしか無いが、気藍、抜燐殿も耳が聞こえないんだな?」
「え・・はい。でも、知り得る者はあたいしか」
「うん、居なかったんだよな。でもな、でなきゃ、この音は耳を破壊する。もしかしたら、そのせいで耳が聞こえなくなったのかも知れない。しかし、抜燐殿の口数が少なかったと言うのは、むしろそっちの理由で、確かに気藍のような音の振動で会話も可能な程では無いにしろ、全く聞こえないんじゃないから、耳にいつも装具をつけていたのは、音を拡大させる機具なんだよな?」
「そこまで分かっていたの?閲呉さん」
「いや、俺は眼で見た事を全部記憶出来る。それから想像したんだ。そして、先にお前が笛を吹いた時、黒鳥が悶えた。効果があったんだ。それに饗場の飛矢も少なからず、効果があった事も分かった」
全てをこの瞬間に凝視し、閲呉は自分なりに観察していた事が分かり、幹部連中が車座になった所で、飛矢を運んで来た衛琉、背無理と今回の状況と圧倒的な敵軍の事を報告すると彼らも青ざめた。
「それ程の大軍勢がこちら側には居るのか・・」
眼が点になった。とても敵う筈が無いと思ったのである。
しかし、閲呉は、二度、三度敵を後退させているのだ。その策を聞いて二人は、
「やはりお前程、この前線で戦える者は居ないのう・・よくぞやった。しかし、圧倒的な敵だ。これはいずれ、こちらの防御と言ってもなあ」
「奴らが岩山を登って、こっち側にやって来なかった理由がきっとある筈だ。そして、飛虫もな。その辺りも全て、これまでの事と総合してこっち側も積み上げたものを、もっともっと全軍で考えるしかない。このままではここは持たないと思う。そう長い間ここを死守する事は不可能だ。ただし、こちらが奇策を持ちいる事は十分に伝わったと思う」
閲呉の言葉に頷きながら、主要な軍の幹部達を全員この黒魔洞に集合させるように伝えると、背無理、衛琉は戻って行った。そして気藍には、抜燐を呼んで来いと伝えたのである。燕尾は今回自分が軍師として何の役にも立てていない事を悔やんでいるようだ。
「あたい、全然軍師の役目を果たせなかった・・」
「まあ、仕方も無いだろう。あの軍勢を見たらな?誰でも動揺するさ」
閲呉は優しい口調で言った。