正体見たり!
既にどこまで首が伸びるのかは分からないが、その怪物は閲呉達の範囲にまではそれが届かなかったし、そのままの位置で動く事は無いようだった。
危うくその怪物に遭遇し、祠に戻った所で燕尾に報告をすると、
「新な怪物ね、これは。恐らく動き回ると言うよりも自分の位置があって、そこの領界に入る獲物を捕食しているんだと思う。こう言う奴が居るから山岳集団は山の中腹に追いやられたと見るべきね」
「ふむ・しかし、この怪物がどの位の数が居るのかは知れないが、正確にそれを把握しとかないと、ふいにやられたら、とんでもない速度で襲って来た。舌べろんもそうだけど、首が伸びるんだからな、それもかなりの長さで」
「情報は山岳集団が多分持って居ると思うけど、今の所は聞く事も無理だし、有効な関係も無く、言語も通用しない」
「いや・・抜燐殿が結構調べていただろ?聞いて見てくれよ、燕尾」
「え・・?」
閲呉の言葉に少し驚く燕尾だったが、この抜燐が簡単に教えてくれるかなと疑問符がついた。重要な事項をほいほい語るような者では無い事を誰よりも知る燕尾は、自分と近い、やはり女性兵士で抜燐の世話をしている気藍に言伝を頼んだのだった。言伝とは地伝達に近い、空伝と言うモールス信号のようなものである。それが、飛翔する燕尾が何種かの音を組み合わせて、空から小太鼓のような音を出すと言うやり方だった。そして、それは気藍にしか分からない伝達方法で、二人で決めたやり方だった。気藍は非常に耳が良く、また知能も高かった。燕尾は、山岳民族がこの音伝達に近いやり取りを離れた仲間達と行っていただろうと言う予測を立て、余りその場を動かない事も突止めていた。つまり、こう言う手段があってこそ、互いのコミュニケーションが取れるのであろう。それでなくては、その身体能力的にも高くなく、せいぜい飛矢程度の武具しか持たない彼らが、限られた食糧を確保し、主食を天鳥にするしか生き延びられる程優しい環境では無いのだから。
そして、やはり解放したその者から気藍にある信号が送られて来たのである。それは、かなりこちらの集団が、いきなり襲って来ないと言う事を感じたその者が、山岳の下付近まで降りて来て、気藍に伝えたのであった。
ここまで数日が経過している。閲呉達はある程度その怪物達が棲息するであろう、平原に近い場所のやはり山腹に居るだろう事は掴めてきたものの、迂闊に動けない。燕尾がその情報を得て、閲呉にこう伝えるのであった。
「少し分かったわ。あの怪物は山岳集団の所までは上がって来られないと言う事よ」
「抜燐殿から?」
「いいえ、気藍から。閲呉が拉致したあの山岳人が教えてくれたと言う事よ」
「え?何時の間に、言語の解析を?」