第1章 勇者現る
この世界には、文化・文明と言うものは殆ど無い。過去にはあったようだが、そう言う環境下には無いし、赤魔と言う存在がこの地に住む者なのかと言う事になると、不明なのだ。実際どのような経路で、空間を切り裂くように突然不意打ちを食らわすように出現しては、今の所この人たる者達のボスがどこに居て、どのような組織なのかも分かっていない状態でそれを説明するのも難しいのだが、所謂寸断された集団があちこちに居るのが人と言われる存在であり、それを襲うのが赤魔と言う事になっているらしい。それに、赤魔以外にも彼らは黒魔、青魔と言う存在も実は語っていて、互いに倒したら食らうと言うのが通常らしい。だから、そこに正邪と言う観念等は無さそうだった。所謂弱肉強食の世界である。
では、何時からこんな状況なのかと言えば、そう遠い昔からでは無かったようなのだ。
背無理が言う。馬路と加太がそこに居た。大将に知らせると言ったが、組織的なものが存在し機能しているのかの事も、少しは彼等からの会話から見えて来るかも知れない。
「とにかくだ。閏琉が殺られるとは思っても居ないが、あの地には何人居たんだ?」
「え・・と、11人が居た筈だ。閏琉を入れてな」
「すると・・全員が赤魔にやられたとなると、かなりの事件だな、これは」
馬路が少し首を捻る。事件って・・その言葉が変に感じたからだ。
「ん?何かおかしいか?馬路」
「おう・・事件ってそもそも何なんだ?背無理は時々変な単語を使うよな」
「おい、馬路。お前も、その単語って何なん?」
今度は加太が馬路に言う。
「いや・・俺も知らない内に、こんな言葉が出て来るんだよ。でも、しばらくすると、何となくその言葉の意味も理解出来ちまう。変だよな、同じくだ」
「遠い昔に、この俺達が住んでいる所は、やっぱり戦いの歴史があって赤魔じゃないけど、同じような環境だったと言う事らしい。断片的に、その過去と言う世界の事は俺達の祖先からも聞くが、その時に使っていた用語らしいんだよな。まあ・・そんな事はさて置きだ。とにもかくにも一つの集団が消えた。これは大きな出来事だと言う意味だと思う」
「成程、確かにそうだな。あ・・今玲都から問いが入った。そもそも閏琉が本当に殺られたのかと言う事だ。それに、恵比寿は2頭の赤魔を倒して帰って来たって話だ」
「2頭か、一度に倒したのか、すげえな。恵比寿も」
「おう、あいつも閏琉と同じく猛者だ。だから、そう衛琉も簡単にくたばっちゃいねえわ。そう答えてやれよ、馬路。もし逃げていたのなら、一番近い俺達の所にまず来る筈だからな」
「分かった・・伝えておく。そうだよな、あいつが逃げられない筈が無いし、むげむげ一方的に殺られる事も無いだろう。これまでも何頭も赤魔を倒している筈だからな。馬路、その辺に赤魔の死体は無かったのか?」
「いや・・無かった。ただ、住居は荒れてぼろぼろだったし、血糊でべったりだった」
「そうか・・じゃあ、集団が消えたって言うのは現実味を帯びているんだな、やっぱり」




